優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
 会議が終わった後、私は逃げるように給湯室へ駆け込んだ。熱いコーヒーを淹れながら、長く長く息を吐く。

 「はぁー……」

 どうしようもなく疲れてしまう。ただでさえ会議は疲れるというのに、今日は一層疲れた。原因が分かっているだけマシとでも言うべきか。

(意識しないようにするのが逆効果なのよね…。分かってはいるんだけど…)

 一口含んだコーヒーの苦みで、ようやく人心地ついたときだった。背後でドアが開く音がし、足音が近づいてくる。

「お疲れ様です、先輩」

 今1番会いたくない人が現れた。一ノ瀬くんは私の隣に立つと、慣れた手つきでティーバッグをコップに入れた。彼の長い指先が、妙に目を引く。それに気づき、言い訳でもするように目を逸らしながら口を開いた。

「お疲れ様。今日はありがとうね」

 彼は淹れたての紅茶を一口含み、湯気の向こうから私をじっと見つめた。その瞳は冷たい氷のようでありつつ、何か言いたげでもあった。

「いえ、それはこちらこそです。それよりも話したいことがあるのですが、今良いですか?」

 さっきの会議の話かと思い頷くと、彼は静かにコップを置いた。

「会議前に飲んだ薬はどういうことですか?口ぶりからして、常習的に服薬していますよね?」

 その話に(げっ…)と心の中で呟く。
 すっかり忘れていた。そういえば、そんな話をしたんだった。

「ただの市販薬よ。頭が痛かったから飲んだだけ」
「常習的に飲んでいますね?」
「用法用量は守った上での服薬よ。…話はそれだけ?」
「……」
「…もう行くわね。また次の会議で」

 さっさと話を切り上げたくて、私は彼を避けるように横を通り過ぎようとした。けれど、一ノ瀬くんの長い腕がそれを阻んだ。
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