優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
深夜22時。
フロアの照明は半分以上が落とされ、静まり返ったオフィスには私のキーボードを叩く音だけが響いていた。時折止まり、再び響く。そんなことを何度も繰り返していた。
「……終わらない」
ディスプレイから目を逸らし、ズキズキと痛むこめかみを指先で押さえる。
会議を経た資料作成は、予想以上に難航していた。大きなプロジェクトを任されただけに、手を抜くわけにはいかない。逃げたい気持ちを抑え込み、もう一度ディスプレイに向き直る。
努力すれば、道は開ける。
努力すれば、その人柄だけでも評価してもらえる。
そう信じて、今までがむしゃらに走ってきた。けれど、気づけば29歳。キャリアが物を言う年齢において、人柄は二の次だった。実績が全ての実力主義。
社会なんて、そんなものだった。
「まーた残業ですか。感心しませんよ、先輩」
振り返ると、そこにはジャケットを腕にかけた一ノ瀬くんが立っていた。が、昨日とは違い、曖昧な笑みを浮かべて近づいてくる。その手には、近所のカフェのロゴが入った紙袋が提げられていた。
「一ノ瀬くん…。用事があるなら、明日にしてくれる?」
「用事ならありますよ。『先輩の面倒をみる』という大事な用事がね」
彼はデスクのわずかなスペースに、紙袋から取り出したホットサンドとカフェラテを置いた。ふわりと漂う香りが、空腹であることを忘れていた胃を刺激する。
「ありがとう。でも、今は食べる気分じゃ…」
「少しでもいいので食べてください。あと、こっちはカフェインレスのカフェラテですので安心して飲んでください」
フロアの照明は半分以上が落とされ、静まり返ったオフィスには私のキーボードを叩く音だけが響いていた。時折止まり、再び響く。そんなことを何度も繰り返していた。
「……終わらない」
ディスプレイから目を逸らし、ズキズキと痛むこめかみを指先で押さえる。
会議を経た資料作成は、予想以上に難航していた。大きなプロジェクトを任されただけに、手を抜くわけにはいかない。逃げたい気持ちを抑え込み、もう一度ディスプレイに向き直る。
努力すれば、道は開ける。
努力すれば、その人柄だけでも評価してもらえる。
そう信じて、今までがむしゃらに走ってきた。けれど、気づけば29歳。キャリアが物を言う年齢において、人柄は二の次だった。実績が全ての実力主義。
社会なんて、そんなものだった。
「まーた残業ですか。感心しませんよ、先輩」
振り返ると、そこにはジャケットを腕にかけた一ノ瀬くんが立っていた。が、昨日とは違い、曖昧な笑みを浮かべて近づいてくる。その手には、近所のカフェのロゴが入った紙袋が提げられていた。
「一ノ瀬くん…。用事があるなら、明日にしてくれる?」
「用事ならありますよ。『先輩の面倒をみる』という大事な用事がね」
彼はデスクのわずかなスペースに、紙袋から取り出したホットサンドとカフェラテを置いた。ふわりと漂う香りが、空腹であることを忘れていた胃を刺激する。
「ありがとう。でも、今は食べる気分じゃ…」
「少しでもいいので食べてください。あと、こっちはカフェインレスのカフェラテですので安心して飲んでください」