アンコールはリビングで
2. 音の成分、恋の分かれ道

「あ、この曲……」

私はパッティングの手を止め、耳を澄ませた。

「イントロのベースライン、すごくいいよね。このうねるようなグルーヴ感、たしかムロイが参加してるって言ってたっけ? シンセの音作りも80年代リスペクトっぽいけど、古臭くなくて洗練されてる」

思わず独り言のように呟いてしまう。

昔から、我が家のリビングには常に音楽が流れていた。
オーディオマニアの父と、ジャンルレスに音楽を愛する母の影響で、私の耳はどうしても「音」の成分を分析してしまう癖がある。

「……たしかにな」

膝の上の湊が、スマホを置いて同意した。

「俺もこの曲好きだよ。……やっぱ凪は耳がいいよな。一聴しただけでそこまで聴き分けるやつ、業界でもそういないぞ」

彼は仰向けのまま、私を見上げた。
その瞳には、単なる恋人への甘さだけでなく、同じ音楽好きとしての敬意のような色が混じっている。

「……凪のご両親も相当な音楽好きだし、凪自身もピアノ長かったろ?今でも思わないのか? 音楽の道に行けばよかった、とかさ」

不意に投げかけられた問いに、私は少し考え込んだ。
それは、かつて何度も自問したことだった。

< 114 / 238 >

この作品をシェア

pagetop