アンコールはリビングで
3. 画面の中の冷たい鎧

ドラマ本編が始まった。

物語はまだ序盤だが、撮影自体はもう佳境に入っていると聞いている。
先日の過酷だった高尾山ロケの記憶が新しいのか、湊自身も少し新鮮そうな顔で画面を眺めている。

画面の中には、高級なダークネイビーのスーツを完璧に着こなした男――佐伯怜司がいた。

一切の隙がない立ち居振る舞い。
髪の一本まで計算されたスタイリング。

舞台は、都心の高層ビル最上階にあるオフィス。

『……A案、B案、どちらも却下だ』

怜司は巨大なモニターに映し出されたデータと、部下たちが提出したプロジェクト案を、感情のない瞳でスキャンしていく。
スピーカーから流れる声は、低く、冷たく、感情が欠落しているようだった。

『収益予測の根拠が甘すぎる。これじゃ投資家は納得しない。君たちは、この会社の『信頼』を数字で示すのが仕事だろう?』

部下たちを萎縮させ、数字だけを信じる合理主義の塊。

怜司は溜息をつき、指先でこめかみを揉む。

『(独白)……人間は、なぜこうも『感情』や『希望的観測』に振り回される?
数字は嘘をつかない。AIなら、この程度の最適解は0.1秒で導き出すというのに……』

『アイリス(開発中の嘘を見抜くAI)』にスケジュールを確認させ、完璧に管理された世界に安息を見出す男。

私は画面の中の怜司と、私の膝の上でスウェットを着てだらけている湊を交互に見比べた。

顔の造作は同じはずなのに、纏っている空気がまるで違う。
画面の向こうの彼は、他者を拒絶する冷たい鉄の鎧を着ているようだ。

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