アンコールはリビングで

8 真紅のバラと、絶対命令

1. 消えた隣人

待ちに待った土曜日。
私の意識は、深い眠りの底からゆっくりと浮上した。

(……あぁ、幸せ。今日は二度寝する。絶対にする)

昨夜、金曜の夜。「明日は泥のように眠るんだ」と固く心に誓ってベッドに入った私にとって、この微睡みの時間は何物にも代えがたい至福だ。

隣に手を伸ばす。いつもなら、そこには温かくて大きな体温があるはずだ。

(……ん?)

指先が触れたのは、ひんやりとしたシーツの感触だけだった。
私は薄目を開けた。隣はもぬけの殻だ。

(……あれ? 湊、いない)

時計を見ると、まだ午前9時。

休日、特に撮影が立て込んでいた週の翌朝は、彼はお昼過ぎまで起きないのが常だ。

数日前、「明日は高尾山で山登りのシーンだから体力勝負だ」とぼやいていたのを思い出す。
あの体力お化けの彼が疲れた顔をして帰ってきたくらいだから、今日は絶対に爆睡していると思っていたのに。

(……珍しい。急な仕事でも入ったのかな)

一抹の不安がよぎる。

せっかくの休日、珍しくマネージャーから呼び出しだろうか。

私は重い体を起こし、あくびを噛み殺しながらリビングへと向かった。
ボサボサの髪、ヨレヨレのパジャマ。完全にオフモードの私。

「……おはよー、湊……?」

ドアを開けた瞬間。

私の思考回路はショートし、言葉が喉に詰まった。

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