アンコールはリビングで
彼はふと足を止めた。
視線の先には、高級ブランドが立ち並ぶエリア。
その中の一角に、洗練されたジュエリーショップのショーウィンドウが輝いている。

(……そういや、最近なんも買ってやってねぇな)

昨日の「3年モノのスウェット」の話を思い出す。
彼女は俺があげたボロボロの服を大切に着ている俺を見て喜んでいたが、俺だって彼女に何かしてやりたい。
厄除け……にはならないかもしれないが、彼女を守る「お守り」代わりになるようなもの。

「……よし」

彼は短く呟くと、駅へ向かう足を止め、くるりと方向転換をした。
向かう先は、自宅ではない。

「……凪のやつ、喜ぶかな」

マスクの下で、想像の中の凪に微笑みかける。
驚く顔が見たい。
呆れながらも、嬉しそうに笑う顔が見たい。

その一心で、彼は煌びやかな街の中へ、一歩足を踏み出した。
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