アンコールはリビングで
3. スパダリの正体

車内には、私の好きなBruno Marsの『Just the Way You Are』が流れている。
これも彼が用意してくれていたのだろうか。

流れる景色。心地よい揺れ。
首都高に入り、車はベイエリアを目指して走っていく。

「そういえば、さ、湊……」

「ん?」

「もしかして、朝イチで花束用意するために、休みの日に早起きして花屋さん行ってくれてたの……?」

冷静になって考えてみれば、あの真紅のバラ。
私が起きる前に用意されていたということは、彼は相当早く起きて準備したはずだ。
睡眠大好きな彼が、休日の朝に。

「……」

サングラスの奥で、彼の視線が一瞬私を捉え、すぐに前に戻った。

「……あ? 当たり前だろ」

「えっ」

「開店と同時に行かねぇと、変な花しか残ってねぇかもしれねぇし。……お前にやるもんだからな。一番いい状態のやつ渡してぇだろ」

彼はぶっきらぼうに、さも当然のことのように言い放った。
ハンドルを握る手はリラックスしているように見えるが、口元が少し尖っている。照れている証拠だ。

(……え、マジで……)

私の彼氏、どんだけスパダリなの……。

いつもは「眠い」「ダルい」って文句ばっかり言ってるのに、私のために早起きして、一番いい花を選ぶために開店待ちして……?

これがツンデレの極みなのか。尊すぎて胸が苦しい。

「……ありがと。一生大事にする」

「……枯れるから無理だろ」

「ドライフラワーにするもん」

「……勝手にしろ」

そっけない物言いだけど、その声は甘く震えている。
これ以上いじると自分の方がオーバーヒートしそうだと思ったのか、彼はパッと話題を変えた。

「……っ……ついたぞ!」

< 40 / 57 >

この作品をシェア

pagetop