アンコールはリビングで
4. 海辺の特等席

車が到着したのは、人の気配が少ない海沿いの公園の駐車場だった。
目の前には東京湾が広がり、遠くにはレインボーブリッジが見える。

彼はエンジンを切ると、後部座席から大きなブランケットを取り出した。

「降りるぞ」

「ここ、どこ?」

「穴場。ここなら人も来ねぇし、景色もいいだろ」

彼は私のドアを開け、エスコートしてくれた。
海風は冷たいけれど、日差しは暖かい。

私たちは海に面したベンチ……ではなく、車のリアゲートを開けて、そこに並んで腰掛けた。
大きな車体が風除けになり、即席のテラス席が出来上がる。

私たちはそこで、買ってきたサンドイッチとコーヒーを軽くつまんだ。

食事はすぐに終わったけれど、湊はまだ動こうとはしなかった。

「……寒くねぇか?」

「うん、コーヒー飲んだから平気」

「嘘つけ。手、冷てぇじゃん」

彼は私の手を握ると、持っていたブランケットを広げ、私ごと包み込むようにして肩に回した。

必然的に、二人の距離が密着する。

「……これでどうだ」

「……うん、あったかい」

「だろ」

彼の体温と、ブランケットの温もり。
そして微かに香る、彼の匂い。

目の前には穏やかな海が広がっているけれど、私の意識は完全に隣の彼に向いていた。

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