アンコールはリビングで

Side B 神様の迷走と、ショーケースの輝き

※この物語は、5『画面越しの王子様と、秘密の寄り道』の直後、8〜10のバレンタインデートより少し前のエピソードです。

1. 神様、街角で立ち尽くす

月曜日の午後3時すぎ。
表参道の並木道は、冷たい風の中にも華やかなバレンタインの空気を纏っていた。

テレビ局でのドラマ番宣の生放送を終え、予定通りにバラシとなった俺、早瀬湊だったが――。

(……待てよ。ジュエリー……? 女子が好きな店ってどこなんだよ……分かんねぇ……)

歩き出したはいいが、ついさっき「バレンタインにサプライズで渡すプレゼントを選ぼう」と思い立ったばかりの無計画ぶり。

下調べもなく、目当てのブランドも決まっていない。

俺の足は、煌びやかなショーウィンドウの前でピタリと止まってしまった。
ポケットからスマホを取り出し、検索しようとするが、指が動かない。

検索ワードすら思い浮かばず、俺は明後日の方向を見つめて呆けた。

いつもの黒縁メガネ、マスク、深めの帽子というフル装備の変装姿。
けれど、185センチのスラリとした体型と、隠しきれないオーラは、どうしたって街中で浮いてしまうらしい。

「ねぇ、あの人すごく背高くない?」

「なんか雰囲気イケメンじゃない? モデルかな?」

すれ違う人々がチラチラと振り返り、少し離れた場所では女子高生たちがひそひそと噂している。

普段なら気配を消して足早に去るところだが、今の俺にそんな余裕はない。
俺の頭の中は、限られた時間でこの「秘密のミッション」を完遂することで埋め尽くされていた。

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