アンコールはリビングで
食後、私たちはソファに並んで座った。
彼が私の肩に頭を預け、私がその柔らかな髪を指で梳く。
テレビの音量は小さく絞られ、部屋には穏やかな静寂が満ちていた。
「……ふふふ〜ん……♪」
不意に、湊の喉の奥から、微かなメロディが漏れた。
とても優しくて、どこか切ない、聴いたことのない旋律。
それは、まるで私の疲れた細胞の一つ一つに染み渡るような、極上のハミングだった。
「……ねぇ、湊」
「ん?」
「その鼻歌、すごくいい曲。……もしかして、新曲?」
私が尋ねると、彼は少し驚いたように目を開け、それから悪戯っぽく口角を上げた。
「……おう。今日、スタジオで録ったばっかのやつ」
「えっ!?」
「まだスタッフと俺しか知らねぇメロディ。……お前が、世界最速の視聴者だな」
彼はそう言うと、私の耳元に顔を寄せ、さっきよりも少しだけはっきりと、そのサビのフレーズを歌ってくれた。
マイクを通さない、吐息混じりの生の声。
数万人の観客を熱狂させる「神の歌声」が、今はたった30センチの距離で、私のためだけに紡がれている。
テレビの中の煌びやかなステージは、もう終わった。
けれど、ここには続きがある。
スポットライトも、歓声もない。あるのは、ヨレヨレのTシャツと、私の体温だけ。
このリビングこそが、彼が素顔で愛を歌う、世界で一番贅沢な特等席なのだ。
「……贅沢だなぁ、私」
「あ? なんか言ったか?」
「ううん。……明日も頑張れる気がするって言ったの」
私は溢れ出しそうな幸福感を噛み締め、彼の手をギュッと握り返した。
「……そりゃよかったな。俺もだ」
彼は私の髪に、ちゅっと口づけを落とすと、また心地よさそうに目を閉じた。
耳元では、優しいハミングが続いている。
私だけのアンコールは、夜が更けるまで終わらない。
彼が私の肩に頭を預け、私がその柔らかな髪を指で梳く。
テレビの音量は小さく絞られ、部屋には穏やかな静寂が満ちていた。
「……ふふふ〜ん……♪」
不意に、湊の喉の奥から、微かなメロディが漏れた。
とても優しくて、どこか切ない、聴いたことのない旋律。
それは、まるで私の疲れた細胞の一つ一つに染み渡るような、極上のハミングだった。
「……ねぇ、湊」
「ん?」
「その鼻歌、すごくいい曲。……もしかして、新曲?」
私が尋ねると、彼は少し驚いたように目を開け、それから悪戯っぽく口角を上げた。
「……おう。今日、スタジオで録ったばっかのやつ」
「えっ!?」
「まだスタッフと俺しか知らねぇメロディ。……お前が、世界最速の視聴者だな」
彼はそう言うと、私の耳元に顔を寄せ、さっきよりも少しだけはっきりと、そのサビのフレーズを歌ってくれた。
マイクを通さない、吐息混じりの生の声。
数万人の観客を熱狂させる「神の歌声」が、今はたった30センチの距離で、私のためだけに紡がれている。
テレビの中の煌びやかなステージは、もう終わった。
けれど、ここには続きがある。
スポットライトも、歓声もない。あるのは、ヨレヨレのTシャツと、私の体温だけ。
このリビングこそが、彼が素顔で愛を歌う、世界で一番贅沢な特等席なのだ。
「……贅沢だなぁ、私」
「あ? なんか言ったか?」
「ううん。……明日も頑張れる気がするって言ったの」
私は溢れ出しそうな幸福感を噛み締め、彼の手をギュッと握り返した。
「……そりゃよかったな。俺もだ」
彼は私の髪に、ちゅっと口づけを落とすと、また心地よさそうに目を閉じた。
耳元では、優しいハミングが続いている。
私だけのアンコールは、夜が更けるまで終わらない。