アンコールはリビングで
ここからは、二人で帰る家路だ。
並んで歩き出す。

袖口が触れ合う距離。
本当なら、手を繋いでポケットに入れたい。でも、それはできない。

もどかしいけれど、この「秘密の距離感」すらも、今の私には愛おしかった。

「……帰ったら、何食う? 俺、腹ペコ」

「んー、作っておいた筑前煮とサラダがあるでしょ……あとは魚でも焼く?」

「おー……って、また茶色じゃねぇか(笑)」

湊は呆れたように笑いながらも、どこか嬉しそうだ。

「まあ、凪のご飯は美味いんだけど……たまにはこう、ガツンとしたジャンクなもん食いてぇな」

「はいはい、また今度ね。今日は身体に優しい和食です」

他愛のない会話を交わしながら、駅の改札へと吸い込まれていく。

ここからは、私たちの日常であると同時に、二人にとっては少しの緊張を伴う「公共の場」だ。

到着した電車に、私たちは身体を滑り込ませた。
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