アンコールはリビングで
「……なんだよそいつ……」

マスクの下から漏れた声は、聞いたことがないほど低く、怒りに満ちていた。

嫉妬なんて生易しいものではない。大切な聖域を土足で踏み荒らされたことへの、激しい憤り。
琥珀色の瞳には、明確な殺意すら宿っているように見えた。

「み、湊、声大きい……」

「……許さねぇ。俺の凪に……そんなこと……」

彼は周囲の目も気にせず、ギリッと奥歯を噛み締めた。
目が本気だ。

「お、落ち着いて……。もうずっと昔の話だし……」

「……昔だろうが関係ねぇよ」

彼は私の肩を抱き寄せ、耳元で低く呟いた。

「……タイムマシン乗って、そいつらしばきに行きてぇわ。マジで。そん時の凪、俺が守ってやりたかった……」

その言葉を聞いた瞬間、私の胸の奥で、カサブタになっていた古傷がポロリと剥がれ落ちた気がした。

当時の私が「仕方ない」「勘違いだ」「波風を立てたくない」と飲み込んでいた恐怖と嫌悪感。
誰にも言えずに、一人で抱えていた冷たい記憶。

それを、十数年後の彼が、自分のことのように怒り、悔やんでくれている。
その事実だけで、過去の私が救われていくのが分かった。

「……ありがと、湊。その気持ちだけで十分だよ」

私の言葉に、彼は何も言わず、ただ痛いほど強く私の肩を抱いた。

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