アンコールはリビングで

Side B - 1 午前4時のルーティンと、想定外の充電

※この物語は、第7話で仕事に疲れてソファで眠ってしまった凪を見つけ、起こさないように夕食の準備をした――その翌朝のエピソードです。

1. 静寂のファンファーレ

ブブブ、ブブブ……。

手首に巻いたスマートウォッチが、皮膚を直接叩くような振動を伝えてきた。
時刻は午前4時00分。

俺、早瀬湊の一日は、無音のアラームから始まる。

(……っしゃ。起きるか)

重いまぶたをこすりながら、俺は音もなくベッドから上半身を起こした。
昨日、マネージャーの島崎さんに「バッチリ起きて行く」と大見得を切った手前、絶対に寝坊は許されない。

俺は小さく息を吐き、隣で眠る恋人へと視線を落とした。

「……んぅ……」

凪はまだ夢の中だ。

布団に半分顔を埋め、何かをむにゃむにゃと呟いている。
幸せそうな寝顔。眉間のシワも、仕事の疲れも見当たらない、無防備な表情。

(なんだ……? なんかうまいもんでも食ってる夢か……?)

思わず口元が緩む。
俺は彼女を起こさないよう、触れるか触れないかという絶妙な力加減で、その柔らかな頬を指の背で撫でた。

温かい。愛おしい。

このまま二度寝して、一日中この寝顔を眺めていたい衝動に駆られるが、今日の俺には「高尾山」というボスが待っている。

(やべ、こんなことしてたら遅れるわ)

自分を叱咤激励し、温かい毛布から抜け出す。

ひんやりとした朝の空気が肌を刺す。
俺は一度部屋を出ようとしたが、どうしても名残惜しくて、もう一度ベッドへ戻った。

そして、身を屈め、凪のさらさらとした髪に唇を寄せた。

「……愛してる。お前も遅れんなよ」

誰にも聞かれない吐息のような声で囁き、キスを落とす。

凪が寝ている時だけは、俺はいくらでも素直になれるロマンチストだ。
彼女が目を覚ましていれば「キザすぎ」と笑われるだろうが、この時間の俺は無敵なのだ。

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