アンコールはリビングで
3. ストイックな汗

部屋に入ると、そこには俺の聖域が広がっていた。

6畳という限られたスペースだが、機能的にまとめられた俺だけの空間だ。
L字型のデスクにはPCと資料が整然と並び、その背後には壁一面の本棚。
そして部屋の隅、デッドスペースをうまく利用して、可変式のダンベルとコンパクトなトレーニングベンチが鎮座している。

俺はカップをデスクに置き、床にヨガマットを敷いた。

今日の撮影は山道でのロケだ。体力勝負になることは目に見えている。
それに、半年後には久しぶりのアルバムツアーも控えている。
ステージで数時間歌って踊り続けるための身体は、一朝一夕では作れない。

(……やるか)

軽くストレッチをしてから、ダンベルを手に取る。

静寂に包まれた部屋に、俺の荒い呼吸音だけが響く。
上腕二頭筋に負荷をかけ、限界まで収縮させる。

じわり、と額に汗が滲む。
Tシャツの背中が湿り、筋肉が熱を持って悲鳴を上げる感覚。
キツイ。でも、この痛みが「生きている」実感を与えてくれる。

凪が栄養管理をしてくれているおかげで、筋肉の付きも以前より格段にいい。

30分間の濃密な時間。
俺は最後のセットを終え、大きく息を吐いてダンベルを床に置いた。

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