転生したので好きなことだけしていたら囲われました

第二の人生、始まりの日

 ――ここは……?

 意識が浮かんでは沈み、また引き戻される。
 何度目かの覚醒で、ようやく視界が形を結んだ。

 目に入ったのは、見覚えのない天井。

 体の下には、柔らかく、なめらかな感触がある。
 見なくてもわかる。ふかふかで、つるつるで――間違いなく高級な寝具。

 (……このベッド、二度寝したら最高そう)

 そう思い、もう一度まぶたを閉じようとした瞬間。

「シャーロット!」

 切迫した声とともに、視界いっぱいに“美”が飛び込んできた。

 息をのむほど整った顔立ちの男性。
 まるで二次元から抜け出してきたかのような美貌で、年の頃は三十代くらいだろうか。

「シャーロット……!」

 今度は、同じく現実感のないほど美しい女性が、涙を浮かべて覗き込んでくる。

 ――え、ここ、顔面偏差値どうなってるの?

「姉様!」

 さらに次の瞬間。

 今まで見たどんな二次元キャラよりも可愛い美少女が、私に飛びついてきた。

 ……可愛っ。
 激カワ。
 しかも、綿菓子みたいに甘い香りまでする。

 反射的に抱きしめ返すと、少女は胸の中で声を殺して泣き出した。

 ――美少女を泣かせるなんて、絶対にあってはならない。

「泣かないで……ソフィア」

 口から自然に零れた名前に、心の中で疑問符が浮かぶ。

 (ソフィア……? 誰……?)

 知らないはずの名前なのに、不思議と違和感がなかった。

「ごめんなさい……シャーロット姉様……」

 ソフィアと呼ばれた少女は、さらに涙を溢れさせる。

「大丈夫よ。私の可愛いソフィア」

 頬に触れると、子猫みたいに手に擦り寄せてきた。

 ――可愛い……尊い……。
 この子は泣かせちゃいけない存在だ。
 泣かせるやつがいたら、私が全力で許さない。

「ああ……シャーロットは、なんて優しい子なんだ」

 男性が目に涙を浮かべ、私の頭を撫でた。

「……一体、何があったのですか?」

 ――現状確認。
 知らない世界に放り込まれたときの鉄則。

「庭の池で、シャーロットとソフィアが小舟に乗っていたんだ。風もないのに突然舟が傾いて……ソフィアが池に投げ出された」

 男性はベッド脇に跪き、私の手を強く握る。

 現場を見ていなくても、どれほど心配していたかが伝わってきた。

「そのとき姉様が池に飛び込んで、私を助けてくれたの。でも……姉様は沈んでいって……」

 思い出したのか、ソフィアは顔を両手で覆った。

「ソフィア、ケガはない?」

 こんな国宝級美少女に、傷なんてあったら大事件だ。

「ううん。どこも大丈夫」

 袖をめくって見せてくれた腕は、傷一つない滑らかさだった。

 よかった……。
 本当によかった。

 ――でも。

 私は池に沈んだはずだ。
 なのに、こうして生きている?

「あの……私を助けてくださった方は……?」

「庭師のスミスが助けてくれた。ただ……シャーロットは丸二日、意識が戻らなかった」

 男性の表情が、再び曇る。

「シャーロットが目覚めたのは奇跡よ。きっと神の思し召しね」

 女性が涙を拭いながら言った。

 (……神じゃなくて、女神です。しかも結構強引な)

 女神様、次はもう少し自然な演出でお願いします。

 話を整理すると――
 妹を助けて池に落ち、二日間意識不明。
 そして、この二人は……。

「父様、母様……ご心配をおかけして、ごめんなさい」

 一か八かで口にすると、二人の表情がほっと緩んだ。

「何を言う。我が子を心配しない親がいるものか」

「帰ってきてくれて、ありがとう。私たちの大切なシャーロット」

 ――確信。

 この人たちは、シャーロットを心から愛している両親だ。

 前世では、親孝行をする前に死んでしまった。
 だから今世では――ちゃんと伝えよう。

「……ありがとう。前より元気になります」

 体はまだ重い。

「もう少し、眠りますね」

 再び横になると、今度は気絶ではなく、穏やかな眠りに落ちていった。

 ――これは、死じゃない。
 確かに、私は生きている。

 そしてきっと、
 ここからが“新しい人生”の始まりなのだ。
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