転生したので好きなことだけしていたら囲われました

新しい生活

 体調がほぼ戻り、三日ほどが過ぎた。

 私はイリック邸の中や庭をゆっくりと歩きながら、この家のことを少しずつ知っていった。

 邸宅は華美ではないけれど、隅々まで手入れが行き届いていて清潔感がある。
 それは使用人の皆さんだけでなく、お母様も日々一緒に整えているからだと聞いた。

 庭は広く、季節の花々や木々が彩り豊かに咲いている。
 草花の配置や手入れの様子から、庭師の方の腕と愛情が伝わってくるようだった。

 そして、庭の隅にひっそりと設けられた小さな裏庭を見つけた。

 そこには、さまざまなハーブが植えられていた。

 この世界では、こうした草花は“雑草”として扱われることが多いらしい。
 けれど、庭師のスミスさんは草花そのものが好きで、許可をもらってこの小さな庭を作ったのだという。

 前世の私は、ハーブや香りのある植物が好きだった。
 育てたり、手作りで香りの品を作ったりしていたこともある。

 スミスさんと草花の話をしていると、
「植物を大切にしてくださるお嬢様に」と、香りのオイルを分けてくださった。

 この世界には、同じものは存在しないらしい。
 スミスさんが試行錯誤を重ね、独自に抽出方法を編み出したのだそうだ。

(本当に、研究熱心で素敵な方だわ)

 このオイルがあれば、私の肌に合った化粧水を作れるかもしれない。

 今使っている市販のものは少し刺激が強く、時々ひりつきを感じていた。
 乾燥を防ぐために我慢して使っていたけれど、無理をする必要はなくなる。

(せっかく新しい人生をもらったのだから、きちんと自分を大切にしなくては)

 ――この小さな選択が、後に私の人生の分岐点になることを、この時はまだ知らなかった。
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