転生したので好きなことだけしていたら囲われました

新しい生活③

 女性たちが邸宅に押しかけてきてから、三十日が過ぎた。

 私とスミスさんで立ち上げた《イリック商会》は、静かに、けれど確実に動き出していた。

 商会の名を決める際、「スミスさんの名前も入れませんか?」と言ったけれど、スミスさんは何度も首を振った。

「私は、あくまでイリック子爵家の庭師ですから」

 でも、この商いはスミスさんなしでは成り立たなかった。
 知識も、技術も、研究への情熱も。

 代表は私。
 けれど、副代表としてスミスさんに名を連ねてもらうことにした。

 この三十日間、邸宅で手の空いた使用人の皆さんにも協力してもらい、
 可能な限りのアロマオイル抽出と化粧品作りを進めた。

 価格設定、販売方法、買い占め防止の規約――
 一つひとつ、慎重に整えていく。

 スミスさんは「そこまでしなくても」と遠慮していたけれど、
 抽出技術や研究に対する対価は、きちんと受け取ってもらうことにした。

 それは、敬意でもあったから。

 

 販売初日から、商品はすべて完売。

 作っても作っても、追いつかない。

 最初はスミスさんの小屋で製造していたけれど、
 やがてイリック家の敷地近くに土地を購入し、小さな工場を建て、従業員も雇った。

 それでも、追いつかない。

 思いがけないほどの大繁盛だった。

 もともと困窮していたわけではないイリック家だけれど、
 化粧水事業の成功で、家の基盤はさらに安定した。

(……これなら)

 私は、結婚を選ばなくても生きていける。
 もしお父様に何かあっても、イリック家が傾くことはない。

 ソフィアには、好きなものを好きなだけ贈ってあげられるし、
 使用人の皆さんの暮らしも、少しずつ豊かになっていく。

 イリック商会の噂は、やがて王都にまで届くようになっていた。
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