涙色のアリス 俺の声が聞こえるかい?
いつもの道を歩いていく。 いつも乗ってるバスはもう行ってしまっている。 バス停で時間を潰していると、、、。
「桜木君 バスは行っちゃったでしょう?」 「うん。 あと20分くらいは来ないなあ。」
「ごめんね。 喫茶店に誘ったりして。」 「いいよ。 嬉しかった。」
「じゃあさあ、佐々木さんに近くまで送ってもらうけどいいかな?」 「そんなこと、、、。」
「いいの。 出掛けるついでだから。」 「それじゃあ、、、。」
楓が電話を切った後、10分ほどしてアルファロメオが走ってきた。 「よう、桜木君。 乗ってくれ。」
「ほんとにいいんですか?」 「楓ちゃんの頼みだ。 断る理由も無いよ。」
そう言って彼はアクセルを踏み込んだ。 外車で送ってもらうなんて初めてだな。
親に不思議がられないようにバス停の傍で降ろしてもらった俺は礼を言ってから歩き始めた。 すっかり夜だなあ。
夜風も冷たくて暖かいコーヒーを飲みたくなってくる。 ってさっき、飲んだじゃないか。
楓と喫茶店に寄ったのも初めてなら外車で送ってもらったのも初めてだ。 初めて尽くしだな 今日は。
あの叔父さんもいい人見体だしなんか救われた気がするなあ。 昨日まで他人だったのに。
そんなこんなで二学期も11月になった。 校内は文化祭の準備で大忙しだ。 俺たちも模擬店やらステージやらで右往左往している。
楓はいつものように「我関せず。」を決め込んでいる。
とはいっても今年は3年。 何もやらないわけにはいかなくて、俺と一緒にタコ焼き屋をやることになった。
もちろん二人だけじゃない。 2年からも3人ほど来てくれている。 俺はタコ焼きを焼く係だ。
「大変だなあ。 1年の時にもやったんだけどさあ、、、。」 「そうなの?」
「あの時は先輩に上手い人が居て教えてもらいながらやったんだ。 今年は俺が教える番だからなあ、、、。」 小麦粉を溶きながら2年生に指示を飛ばす。
焼けたタコ焼きをパック詰めする人。 それを売る人、客を呼び込む人、、、。
人選も大変なんだよな。 間違えるとうまくいかなくなる。
楓にはタコ焼きを売る係をやってもらうことにした。 「出来るかなあ?」
「大丈夫だよ。 俺が見てるから。」 「焼きながら見れるの?」
「出来上がるまでには少し時間が有るんだ。 出来ないことは無いよ。」 鉢巻を締めながら俺は笑った。
楓はタコ焼きが焼けるのを見守りながら何かボーっとしている。 何か有るのかな?
まあまだ本番までは一週間有るから今のうちにいろいろと教えておいたほうがいいかな。 祭り法被だって着るんだし。
タコ焼きを焼きながら2年生にいろいろと指示をする。 楓はそれを見ながらノートに書いている。
模擬店が始まるのは一日目の昼からだ。 それまでに用意をしておこう。
粉だって買ってこないといけないしバターだってタコだって買ってこないといけない。 安い店は有るんだけど油断するとすぐに売り切れるから。
「ねえねえ買い物さあ、私に任せてくれない?」 「いいけど持てるかな?」
「量はこの通りでいいんだよね?」 「そうだなあ。 もうちっと増やしてもいいかもしれないな。」
「じゃあさあ木曜日までに揃えておくよ。」 「ありがとう。 助かるわ。」
模擬店って他には喫茶店とか弁当屋とか茶屋とか出すんだ いつも。
んで、食べ物ばかりじゃ面白くないからお化け屋敷とかミラーハウスとか工夫しながら作ってるんだよね。
時々は工業課の卒業作品展とか変わった行事もやる。 たまに見応えの有る物を作ってるんだって。
さてさて文化祭の前準備は終わった。 後は用意して本番を迎えるだけ。
放課後、楓は一人で本を読んでいた。 「残ってたんだね。」
「うん。 すぐに帰る気にはなれなくて。」 「何で?」
「あと3か月くらいでしょう。 もうこの椅子に座ることも無いんだなって思ったら寂しくなっちゃって、、、。」 「ロマンティストだなあ。 楓は。」
「そんなんじゃないよ。 誰だって有るんじゃないの?」 「そりゃあ俺だって考えないことは無いけどまだ先だよ。」
「まだまだって思ってたらすぐに来ちゃうのよ。」 「そうなのかなあ?」
確かにそう思うとあと3か月くらいなんだよな。 入学した時は「これからだあ!」って思ってたのに。
そうなるとさあ、人間の一生もあっという間なんだね。 生まれた時は何も分からないのに。
聞いた話では生まれた時には既に数十億年の年を取ってるって言うよね。 ということはさ、人間は全て数十億歳で生まれてくるってことなのかなあ?
最初は一つの細胞だった。 地球で生まれた最初の生命みたいに。
それが細胞分裂を繰り返して大きくて複雑な体を持つようになる。 そして自分で動き始める。
しかもそれは因と縁に支配されている。 知ると知らずとに関わらずにね。
今、こうして俺は楓と親しくなった。 これだって過去に因が有って現在に縁を結んだんだということが出来る。
考えてみれば俺たちは計り知れない過去から様々な縁を結び、様々な縁を切ってきたんだね。 静かな教室で哲学的な空想を膨らませている。
「ねえ、桜木君って誰か好きな人は居るの?」 とっさに楓が聞いてきた。
「何だい? いきなり。」 「女の子の噂って聞かないからさあ、ほんとはどうなのかな?って思って。」
「居ないなあ。 今までバイクが恋人だったから。」 「そうなのか。 族だったしね。」
「楓ちゃんはどうなの?」 「私ねえ。 桜木君に恋してるかも。」
楓はそう言うと赤くなって俯いた。 「そうなのかなあ? 「誰も居ませんよ。」って顔してるけど。」
「分かった? ばれちゃったか。」 本を閉じた楓は立ち上がると俺をまっすぐに見詰めるんだ。
「とか言いながらさ、ほんとは前から桜木君をじっと見てたの。 いい人だなって。」 「楓ちゃん。」
「私ね、桜木君のことが好きなの。 国先さんに絡まれてるのを見てたらそう思ったのよ。」 「不思議だね。」
「そう。 不思議なの。 あの後、佐々木さんたちにも言われたわ。 「あの人は楓さんを守ってくれる人だよ。 大事にしな。」って。」 「ありがとう。 楓。」
「おーーーい、まだ残ってるなら速く帰れよーーーーー。」 またまた見回りの声が聞こえた。
「ゆっくり話せないわね。 日曜日にさあ、うちに遊びに来ない?」 「いいの?」
「平気だよ。 お父さんたちは平日に休みを取ってるから。」 「じゃあ遠慮なく遊びに行くよ。」
話しながら昇降口へ向かう。 蛍光灯が周りを明るく照らしている。
校門を出た俺たちは手を振って別れていった。
こうして楓と親しくなっていく。 今まで何故こうしなかったんだろう?
もっと早く付き合いたかったな。 卒業しちまったら会えるかどうかも分からないんだから。
いつものようにバスに揺られている。 ぼんやりと外を見詰めていると見覚えの有る顔が見えた。
(あいつ、こないだの、、、。) 三好町のラーメン屋 そよ風亭の前で高校生を殴っている。
俺は慌てて楓にメールを送った。
『え? 国先さんがやってるの?』
『間違い無いよ。 高校生を詰めてるみたい。』
『分かった。 止めてもらうわ。』
メールした後、俺はふと考えた。 (これから就職の相談会が始まるんだよな。 俺って何が出来るんだろう?)
これといって資格を持っているわけでもない。 これという技術を持っているわけでもない。
これっていう希望が有るわけでもない。 頭の中は空っぽなんだ。
その状態で「どんな仕事をしたいですか?」って聞かれるんだよな。 聞かれても分からないのに。
楓だって同じかもしれないな。 どうするんだろう?
バスを降りていつもの道を歩きながら同じことを考える。 職業体験くらいしたかったな。
歩道に空き缶が転がっている。 それを思い切り蹴飛ばしてみる。
どっかの庭に飛び込んでおっさんが渋い顔をしているのが見える。 お構いなしに俺は歩く。
家に帰ってくるとメールが送られてきた。
『教えてくれてありがとね。 国先さんにはとことんお灸を据えてもらったよ。
それから殴られてた高校生だけど、ケガしてるから病院に送ったって。』
『良かった。 あれはやっぱりひどいよ。 一方的に殴ってたみたいだから。』
『なんかさあ桜木君に無視されたのが気に入らなくて殴ってたんだって。』
「それはまたひどいなあ。 俺にやってくれりゃいいのに。』
『ダメだよ。 桜木君は大事な人なんだから。』
楓は確かに変わった。 俺の前だけでも確かに変わった。
今までは(自分のことはほっといてください。)って言ってるみたいだったのに。
そんな楓が俺は好きだな。 一生付き合っていけたらと思う。
坂本組のお嬢でもいいじゃないか。 腹を割って話してみれば素直な人だよ。
なあ母ちゃん。
さてさて6日の日曜日になりました。 いつものようにバイクを吹かしていると兄ちゃんが出てきた。
「飛ばしに行くのか?」 「たまには飛ばさないと何か落ち着かなくて。」
「そうか。 やっぱりお前はバイク野郎だなあ。 気を付けて行ってこいよ。」 「じゃあ。」
庭から勢い良く飛び出してバス通りへ向かう。 楓の家に遊びに行くことはそりゃあもちろん内緒にしてある。
兄ちゃんは勤務2年目の巡査なんだから。 変な顔でもされたら行く気が無くなっちまうからな。
バス通りを軽く飛ばしていく。 見慣れた風景がそこに有る。
高校の前から脇道に入る。 すると、、、。
「てめえか。 国先の邪魔をしたやつは?」 男が噛み付いてきた。
「知らねえよ。 邪魔だな。」 「邪魔? てめえのほうが邪魔なんだよ。」
「うっせえなあ。 あんたに付き合ってる暇は無いんだ。 消えてくんねえか?」 「何だと? 優しくしてりゃいい気になりやがってよ。」
男がヒートアップしてくる。 「バイクから降りろ。 俺と戦え‼」
「俺は喧嘩も煽りも嫌いなんだ。 他のやつとやってくれよ。」 「のぼせるな‼」
男は殴りかかってきた。 俺は殴られるままに路面にぶっ倒れた。
「へ。 まるっきし弱いやつじゃん。 ボコボコにしてやる‼」 俺は殴られるままに殴られ、蹴られるままに蹴られている。
すると3人の男が駆け寄ってきた。 「島田じゃないか。 何をしてるんだ?」
「うっせえ! お前らには関係ねえだろう‼」 「大いに関係有るぜ。」
「何だと? 貴様らもこいつみたいに這いつくばりてえのか?」 「島田よ、お前国先に煽られたんだな?」
「へ、それがどうしたよ?」 「仕方ないな。 連れて行こう。」
俺はぶっ倒れたまま成り行きを見守っている。 島田という男はまだまだ抵抗しているらしい。
3人の男が島田を引きずりながらどっかへ行ってしまうと楓が飛んできた。 「桜木君‼」
「楓ちゃん。」 「遅いなと思って近くまで見に来たんだ。 災難だったね。」 「あいつはいったい?」
「国東さんと一緒に暴れてる島田って男よ。」 「何処に行ったんだろう?」
「大丈夫。 二人揃って組の事務所に監禁したから。」 「おいおい、それは怖いなあ。」
「いいの。 一般庶民に迷惑を掛けてケガまでさせたんだから。」 俺はやっと立ち上がってバイクのエンジンを、、、。
「あれ? エンジンが掛からない。」 「あらら、こんなことまでやったのね? 後で修理してもらうわ。」
「いいよ。 付き合いの有る店で、、、。 いててて、、、、。」 「どうしたの?」
「殴られたり蹴られたりしたからさあ、、、。」 「うちに来て。 ゆっくり休んで。」
「ありがとう。」 楓はバイクを押す俺の腰に腕を回してきた。
「桜木君 本当に仕返ししなかったのね?」 「そりゃそうだよ。 族の約束だ。」
「桜木君 バスは行っちゃったでしょう?」 「うん。 あと20分くらいは来ないなあ。」
「ごめんね。 喫茶店に誘ったりして。」 「いいよ。 嬉しかった。」
「じゃあさあ、佐々木さんに近くまで送ってもらうけどいいかな?」 「そんなこと、、、。」
「いいの。 出掛けるついでだから。」 「それじゃあ、、、。」
楓が電話を切った後、10分ほどしてアルファロメオが走ってきた。 「よう、桜木君。 乗ってくれ。」
「ほんとにいいんですか?」 「楓ちゃんの頼みだ。 断る理由も無いよ。」
そう言って彼はアクセルを踏み込んだ。 外車で送ってもらうなんて初めてだな。
親に不思議がられないようにバス停の傍で降ろしてもらった俺は礼を言ってから歩き始めた。 すっかり夜だなあ。
夜風も冷たくて暖かいコーヒーを飲みたくなってくる。 ってさっき、飲んだじゃないか。
楓と喫茶店に寄ったのも初めてなら外車で送ってもらったのも初めてだ。 初めて尽くしだな 今日は。
あの叔父さんもいい人見体だしなんか救われた気がするなあ。 昨日まで他人だったのに。
そんなこんなで二学期も11月になった。 校内は文化祭の準備で大忙しだ。 俺たちも模擬店やらステージやらで右往左往している。
楓はいつものように「我関せず。」を決め込んでいる。
とはいっても今年は3年。 何もやらないわけにはいかなくて、俺と一緒にタコ焼き屋をやることになった。
もちろん二人だけじゃない。 2年からも3人ほど来てくれている。 俺はタコ焼きを焼く係だ。
「大変だなあ。 1年の時にもやったんだけどさあ、、、。」 「そうなの?」
「あの時は先輩に上手い人が居て教えてもらいながらやったんだ。 今年は俺が教える番だからなあ、、、。」 小麦粉を溶きながら2年生に指示を飛ばす。
焼けたタコ焼きをパック詰めする人。 それを売る人、客を呼び込む人、、、。
人選も大変なんだよな。 間違えるとうまくいかなくなる。
楓にはタコ焼きを売る係をやってもらうことにした。 「出来るかなあ?」
「大丈夫だよ。 俺が見てるから。」 「焼きながら見れるの?」
「出来上がるまでには少し時間が有るんだ。 出来ないことは無いよ。」 鉢巻を締めながら俺は笑った。
楓はタコ焼きが焼けるのを見守りながら何かボーっとしている。 何か有るのかな?
まあまだ本番までは一週間有るから今のうちにいろいろと教えておいたほうがいいかな。 祭り法被だって着るんだし。
タコ焼きを焼きながら2年生にいろいろと指示をする。 楓はそれを見ながらノートに書いている。
模擬店が始まるのは一日目の昼からだ。 それまでに用意をしておこう。
粉だって買ってこないといけないしバターだってタコだって買ってこないといけない。 安い店は有るんだけど油断するとすぐに売り切れるから。
「ねえねえ買い物さあ、私に任せてくれない?」 「いいけど持てるかな?」
「量はこの通りでいいんだよね?」 「そうだなあ。 もうちっと増やしてもいいかもしれないな。」
「じゃあさあ木曜日までに揃えておくよ。」 「ありがとう。 助かるわ。」
模擬店って他には喫茶店とか弁当屋とか茶屋とか出すんだ いつも。
んで、食べ物ばかりじゃ面白くないからお化け屋敷とかミラーハウスとか工夫しながら作ってるんだよね。
時々は工業課の卒業作品展とか変わった行事もやる。 たまに見応えの有る物を作ってるんだって。
さてさて文化祭の前準備は終わった。 後は用意して本番を迎えるだけ。
放課後、楓は一人で本を読んでいた。 「残ってたんだね。」
「うん。 すぐに帰る気にはなれなくて。」 「何で?」
「あと3か月くらいでしょう。 もうこの椅子に座ることも無いんだなって思ったら寂しくなっちゃって、、、。」 「ロマンティストだなあ。 楓は。」
「そんなんじゃないよ。 誰だって有るんじゃないの?」 「そりゃあ俺だって考えないことは無いけどまだ先だよ。」
「まだまだって思ってたらすぐに来ちゃうのよ。」 「そうなのかなあ?」
確かにそう思うとあと3か月くらいなんだよな。 入学した時は「これからだあ!」って思ってたのに。
そうなるとさあ、人間の一生もあっという間なんだね。 生まれた時は何も分からないのに。
聞いた話では生まれた時には既に数十億年の年を取ってるって言うよね。 ということはさ、人間は全て数十億歳で生まれてくるってことなのかなあ?
最初は一つの細胞だった。 地球で生まれた最初の生命みたいに。
それが細胞分裂を繰り返して大きくて複雑な体を持つようになる。 そして自分で動き始める。
しかもそれは因と縁に支配されている。 知ると知らずとに関わらずにね。
今、こうして俺は楓と親しくなった。 これだって過去に因が有って現在に縁を結んだんだということが出来る。
考えてみれば俺たちは計り知れない過去から様々な縁を結び、様々な縁を切ってきたんだね。 静かな教室で哲学的な空想を膨らませている。
「ねえ、桜木君って誰か好きな人は居るの?」 とっさに楓が聞いてきた。
「何だい? いきなり。」 「女の子の噂って聞かないからさあ、ほんとはどうなのかな?って思って。」
「居ないなあ。 今までバイクが恋人だったから。」 「そうなのか。 族だったしね。」
「楓ちゃんはどうなの?」 「私ねえ。 桜木君に恋してるかも。」
楓はそう言うと赤くなって俯いた。 「そうなのかなあ? 「誰も居ませんよ。」って顔してるけど。」
「分かった? ばれちゃったか。」 本を閉じた楓は立ち上がると俺をまっすぐに見詰めるんだ。
「とか言いながらさ、ほんとは前から桜木君をじっと見てたの。 いい人だなって。」 「楓ちゃん。」
「私ね、桜木君のことが好きなの。 国先さんに絡まれてるのを見てたらそう思ったのよ。」 「不思議だね。」
「そう。 不思議なの。 あの後、佐々木さんたちにも言われたわ。 「あの人は楓さんを守ってくれる人だよ。 大事にしな。」って。」 「ありがとう。 楓。」
「おーーーい、まだ残ってるなら速く帰れよーーーーー。」 またまた見回りの声が聞こえた。
「ゆっくり話せないわね。 日曜日にさあ、うちに遊びに来ない?」 「いいの?」
「平気だよ。 お父さんたちは平日に休みを取ってるから。」 「じゃあ遠慮なく遊びに行くよ。」
話しながら昇降口へ向かう。 蛍光灯が周りを明るく照らしている。
校門を出た俺たちは手を振って別れていった。
こうして楓と親しくなっていく。 今まで何故こうしなかったんだろう?
もっと早く付き合いたかったな。 卒業しちまったら会えるかどうかも分からないんだから。
いつものようにバスに揺られている。 ぼんやりと外を見詰めていると見覚えの有る顔が見えた。
(あいつ、こないだの、、、。) 三好町のラーメン屋 そよ風亭の前で高校生を殴っている。
俺は慌てて楓にメールを送った。
『え? 国先さんがやってるの?』
『間違い無いよ。 高校生を詰めてるみたい。』
『分かった。 止めてもらうわ。』
メールした後、俺はふと考えた。 (これから就職の相談会が始まるんだよな。 俺って何が出来るんだろう?)
これといって資格を持っているわけでもない。 これという技術を持っているわけでもない。
これっていう希望が有るわけでもない。 頭の中は空っぽなんだ。
その状態で「どんな仕事をしたいですか?」って聞かれるんだよな。 聞かれても分からないのに。
楓だって同じかもしれないな。 どうするんだろう?
バスを降りていつもの道を歩きながら同じことを考える。 職業体験くらいしたかったな。
歩道に空き缶が転がっている。 それを思い切り蹴飛ばしてみる。
どっかの庭に飛び込んでおっさんが渋い顔をしているのが見える。 お構いなしに俺は歩く。
家に帰ってくるとメールが送られてきた。
『教えてくれてありがとね。 国先さんにはとことんお灸を据えてもらったよ。
それから殴られてた高校生だけど、ケガしてるから病院に送ったって。』
『良かった。 あれはやっぱりひどいよ。 一方的に殴ってたみたいだから。』
『なんかさあ桜木君に無視されたのが気に入らなくて殴ってたんだって。』
「それはまたひどいなあ。 俺にやってくれりゃいいのに。』
『ダメだよ。 桜木君は大事な人なんだから。』
楓は確かに変わった。 俺の前だけでも確かに変わった。
今までは(自分のことはほっといてください。)って言ってるみたいだったのに。
そんな楓が俺は好きだな。 一生付き合っていけたらと思う。
坂本組のお嬢でもいいじゃないか。 腹を割って話してみれば素直な人だよ。
なあ母ちゃん。
さてさて6日の日曜日になりました。 いつものようにバイクを吹かしていると兄ちゃんが出てきた。
「飛ばしに行くのか?」 「たまには飛ばさないと何か落ち着かなくて。」
「そうか。 やっぱりお前はバイク野郎だなあ。 気を付けて行ってこいよ。」 「じゃあ。」
庭から勢い良く飛び出してバス通りへ向かう。 楓の家に遊びに行くことはそりゃあもちろん内緒にしてある。
兄ちゃんは勤務2年目の巡査なんだから。 変な顔でもされたら行く気が無くなっちまうからな。
バス通りを軽く飛ばしていく。 見慣れた風景がそこに有る。
高校の前から脇道に入る。 すると、、、。
「てめえか。 国先の邪魔をしたやつは?」 男が噛み付いてきた。
「知らねえよ。 邪魔だな。」 「邪魔? てめえのほうが邪魔なんだよ。」
「うっせえなあ。 あんたに付き合ってる暇は無いんだ。 消えてくんねえか?」 「何だと? 優しくしてりゃいい気になりやがってよ。」
男がヒートアップしてくる。 「バイクから降りろ。 俺と戦え‼」
「俺は喧嘩も煽りも嫌いなんだ。 他のやつとやってくれよ。」 「のぼせるな‼」
男は殴りかかってきた。 俺は殴られるままに路面にぶっ倒れた。
「へ。 まるっきし弱いやつじゃん。 ボコボコにしてやる‼」 俺は殴られるままに殴られ、蹴られるままに蹴られている。
すると3人の男が駆け寄ってきた。 「島田じゃないか。 何をしてるんだ?」
「うっせえ! お前らには関係ねえだろう‼」 「大いに関係有るぜ。」
「何だと? 貴様らもこいつみたいに這いつくばりてえのか?」 「島田よ、お前国先に煽られたんだな?」
「へ、それがどうしたよ?」 「仕方ないな。 連れて行こう。」
俺はぶっ倒れたまま成り行きを見守っている。 島田という男はまだまだ抵抗しているらしい。
3人の男が島田を引きずりながらどっかへ行ってしまうと楓が飛んできた。 「桜木君‼」
「楓ちゃん。」 「遅いなと思って近くまで見に来たんだ。 災難だったね。」 「あいつはいったい?」
「国東さんと一緒に暴れてる島田って男よ。」 「何処に行ったんだろう?」
「大丈夫。 二人揃って組の事務所に監禁したから。」 「おいおい、それは怖いなあ。」
「いいの。 一般庶民に迷惑を掛けてケガまでさせたんだから。」 俺はやっと立ち上がってバイクのエンジンを、、、。
「あれ? エンジンが掛からない。」 「あらら、こんなことまでやったのね? 後で修理してもらうわ。」
「いいよ。 付き合いの有る店で、、、。 いててて、、、、。」 「どうしたの?」
「殴られたり蹴られたりしたからさあ、、、。」 「うちに来て。 ゆっくり休んで。」
「ありがとう。」 楓はバイクを押す俺の腰に腕を回してきた。
「桜木君 本当に仕返ししなかったのね?」 「そりゃそうだよ。 族の約束だ。」