涙色のアリス 俺の声が聞こえるかい?
『あけましておめでとうございます。 今年もよろしくお願いいたします。』
楓から真面目腐ったメールが届いたのは1月2日の朝だった。 「年賀状化。」
俺はというと苦笑しながら返信をする。 「何て書いてやろうかな?」
『あけましておめでとうございました。 今年はお互いに大変な年になりそうだね。
一緒に乗り越えていけたらいいな。 よろしくね。』
そう返してからコーヒーを飲む。 「最近はお節料理も食べないなあ。」
「食べたいなら買っておいで。」 料理を作っていた母ちゃんがそう言って笑う。
今年もいつもと変わらぬ正月が来たようだね。 年賀状もめっきり減ってしまった。
あの時にぶっ壊されたバイクも完全に修理されて戻ってきたし今年はいいことも有るかなあ? 何だかウキウキしている自分が居る。
楓が居るからなのかも? そりゃあ楓と一緒に居るようになってからいろんなことが起きたよ。
国先にすごまれ、島田にはボコボコにされ、その後で矢島とかいう愚連隊のやつに刺されそうになったり、族に絡まれてる楓を助けに行って燃やされそうになったり。
ふつうのやつなら「楓となんか付き合うもんか‼」って言いそうな事件ばかり起きるけどさ、俺は何とも思わないんだよな。 それだけ楓が俺には大事な人なんだよ。
周りの連中には無愛想で冷たい女だって思われてるみたいだけど、俺としてはそっちのほうがいいんだ。 邪魔されなくて済むからな。
さあ1月も7日だ。 今日から三学期だぜ。
進学組は緊張しまくって朝からピリピリしてる。 こんな時に絡むのはごめん被りたいわ。
すんげえ勢いでド噴火するからな。 怖いもんだぜ。
だからって就職組も落ち着いて付き合えたもんじゃない。 内定が出てるやつならいくらかでも落ち着いてるからいいけどさあ。
俺だって楓だって内定にはまだまだほど遠い。 でもなぜかいつも放課後まで残って他のやつらが羨ましがるくらいにお喋りに熱中している。
焦ってないわけじゃない。 二人とも何とかしたいと思っている。
でもさ焦ったってどうしようもない時って有るんだよなあ。 果報は寝て待てって言うだろう。
何もしてないわけじゃない。 求人にもちゃんと応募してるし面接にも行ってる。
ただ相手が選んでくれてないだけ。 選ばれたら飛び上がって喜ぶよ。
でも楓はどうなのかなあ? さすがに安塚の名前じゃあ採らないんじゃないか?
だって安塚と言えば坂本組と付き合いの有る人間だってのは世間の常識だからなあ。
「今日も残ってたんだね?」 本を読んでいたら楓が聞いてきた。
「そうだよ。 少しでも楓の傍に居たくて。」 「ありがとう。 でもいいの? 私と関わったばかりに殴られたり焼かれそうになったりして、、、。」
「いいんだよ。 楓の隣が俺の居場所なんだ。」 「俺の居場所、、、。 嬉しいこと言ってくれるなあ。」
楓のツインテールが揺れた。 最初は変な頭だなって思ったのに、この頃では可愛くてしょうがないんだ。
気持ちが変われば見方も変わるんだなあ。 教えられたよ。
「雪 降ってるねえ。」 「この分だと積もるんじゃないかな?」
「小っちゃい頃は雪合戦とかしたけどお父さんが忙しくなってから全然やらなくなったな。」 「今度、俺とやるか?」
「なんか走って逃げそうだけど、、、。」 「そんなこと無いよ。」
「じゃあやりたいな。」 「よし。 日曜日にやろう。」
「そうだね。 うちの近所にちょっと大きめの公園が有るんだ。 そこに広場が有るからそこでやろうね。」
そうやって雪合戦の予定を組んだ俺たちは昇降口へ下りて行った。 夏の間は開けてある正面玄関も今は閉じられている。
その多少重たいドアを開けて外へ出る。 北風が頬を突き刺してくる。
「寒いなあ。」 そう言いながら楓が俺にくっ付いてきた。
校長たちに見られるとうるさいから校門を出てから楓を抱き寄せる。 (まずは楓を送って行こう。)
俺が右に曲がったもんだから楓は一瞬不思議な顔をした。 「家まで送るよ。」
「うん。 ありがとう。」 それからしばらくは何も話さないまま。
家の玄関を開けたら手を振って俺は背を向ける。 「明日もよろしくね。」
楓の声が俺を追い掛けてくる。 一度振り返ってから歩き始める。
何とまあ暖かい気持ちになるんだろう? これまでは素っ気なく見えていた楓なのに。
寒い道を歩いていく。 バス停にまで来ると次のバスまであと5分くらいだった。
「よう、お前さあ国先をやっつけたんだって?」 「おいおい、俺はそんなことしてねえよ。」
「リーダーから聞いたぜ。」 「島田ってやつが殴りかかってきたから誰かに助けてはもらったけど、、、。」
「島田? ああ、あのアホか。」 「あのアホ?」
「覚えてないのか? リーダーの彼女に手を出してボコボコにされたやつ。」 「ああ、居たなあ そんなやつが。」
「リーダーも喧嘩と煽りは厳禁だって言ってたけど彼女をやられたんじゃ堪んねえよな。 それでやっちまって族を解散したんだ。」
「そうだったのか。 解散にしては速過ぎるなって思ったんだ。」 「お前も気を付けるんだぜ。 彼女も居るんだろうから。」
「いやいやまだまだ居ねえよ。」 「そのうちに作るんだろうから頑張れ。」
セカンドリーダーだって山内孝則だ。 こいつはリーダーの右腕だったやつだよ。
バスに乗ってまたまた楓のことを考える。 あいつが彼女だって言ったらファイヤードラゴンの連中はどんな顔するかなあ?
楽しみでもあり、恐怖でもある。 だって坂本組のお嬢だからね。
「何で組のやつと付き合ってんだよ? 危ない連中なんだぜ。」なんて言ってくるやつも必ず居るはずだ。
そうだよなあ。 なんたって坂本組なんだから。
翌8日は水曜日。 いつも通りに授業が行われております。
国語に英語、数学に音楽、歴史に最後が体育。 「いいか‼ 今日はマラソンをやる。 みんな走れるだけ走ってこい!」
北風が吹きずさむグラウンドをグルグルと何周もする。 終いには何周目なのか分からなくなってみんな混乱している。
「疲れたなあ。」 「喋れるならそんなに疲れてないってことだ。 もうちっと走ってこい!」 池上先生は鬼みたいに笑いながら送り出してくる。
またまた俺たちは走り始める。 楓は必死に俺に付いてくるんだ。
「頑張ったなあ。 ご褒美は無しだぞ。」 「えーーーーーーー? 無いの?」
「違うよ。 梨だよ 梨。」 「木村、お前がみんなに御褒美をくれるのか? みんな喜べ。」
「ワーーーイ。」 「チョチョチョ、待ってよ。」
「何だ? あげないのか?」 「先生も意地悪だなあ。 無しだって言うから梨だって言っただけなのに。」
「まあいい。 早く帰って体を冷やさないように注意しろ。 いいな。」 体育が最後だったからみんなはほとほと疲れている。
喧嘩する元気も無くてそのまま静かに教室へ戻ってきた。 それですぐに帰るかと思ったんだが、ほとんどのクラスメートは居眠りを始めてしまったらしい。
(これじゃあゆっくりと話せないな。) そう思った俺は楓を手招きしてさっさと教室を出て行った。
「みんな残っちゃったね。」 「あれじゃあ落ち着いて話せない。 どっかで時間を潰そうか。」
「じゃあさあスイートに行く?」 「いいね。 あそこなら静かだしマスターも邪魔してこないからいいな。」
みんなが教室で夢を見ている頃、俺と楓はスイートにやってきた。
「おじさん、また来ちゃった。」 「あいよ。 こっちのボックスにどうだ?」
「ちょうどよかった。 話したいことが有ってさ。」 「そっかそっか。 ウェイターにも必要以外は行かないように話しとくよ。」
「へえ、こんなボックスが有るんだね。」 「うん。 滅多に使わないけどさ、、、。」
四畳半ほどの落ち着いた部屋だ。 そこにはコール用の電話が置いてあるだけ。
壁には山の写真が飾られている。 「何処だったかな、ドイツかどっかの山だって。」
「へえ、あれあれ? 書いて有るじゃん。 ドイツのセントビクトワールだって。」 「書いてあったの? 知らなかったわ。」
「失礼します。」 そこにウェイターが入ってきた。
「ご注文はいかがいたしましょうか?」 「そうね、私はレモンティーとショコラ。」
「じゃあ俺はホットコーヒーとショートケーキを。」 「畏まりました。 10分ほどお待ちくださいませね。」
ウェイターが行ってしまうと俺はまた壁の写真に目を移した。 マスターホルンの写真も飾ってある。
「山 好きなのかなあ?」 「さあねえ。 雰囲気を考えてこうしたんじゃないかなあ?」
俺たちがスイートでのんびりしている頃、教室では、、、。 進学組がうざそうな顔をして勉強をしてます。
就職組は、、、と思ったら机に伏したまま寝息を立ててますよ。 時々、進学組の誰かがシャーペンで頬っぺたを突き刺して起こしてるんだけど、、、。
そこへ見回りの先生がやってきました。 「おいおい、ここで寝てるのか? さっさと起きて帰りなさい。」 その声に驚いたのか寝ぼけ眼の就職組は慌てて帰宅準備を始めるのでした。
「桜木君さあ、何で族に入ったの?」 「何でだろうなあ? バイクに乗ってたら「俺と一緒に走らねえか?」って誘われたんだ。」
「誰に?」 「先輩の川崎慎吾さんだよ。」
「え? 川崎さん?」 楓は頓狂な声を挙げた。
「知ってるの?」 「知ってるも何も、、、。 慎吾さんって私の甥だよ。」
「そんな所まで縁が有ったのか。 世の中って狭いなあ。」 「ほんとだね。 なんかとんでもなく広く感じるけど、、、。」
楓はますます思い入れを深くしたみたい。 自分の甥と俺が知り合いだったって知ったんだもんな。
不思議だよなあ。 気付かない所で布石が打たれてるなんて。
もし慎吾さんと出会わなかったら楓とここまで親しくならなかったかもしれない。 大げさかもしれないけど俺はそう思う。
あの文化祭の帰り道、タコ焼きを二人で摘まみながら話したんだ。 「私さあ、桜木君となら一緒になってもいいって思ってるんだ。」
「何で?」 「ここまで私を受け入れてくれた人だから。」
「もっといい人は居るんじゃないの?」 「んんんん、桜木君以上にいい人には会わないよ きっと。」
何で楓がそう思うのかは分からない。 でもここ半年の間にここまで急接近したのは事実だ。
最初は(取っ付きにくいやつだな。)って思ったんだよ。 他のやつと同じくで。
でもさ、国先にすごまれた時、俺は確信したんだ。 守りたい人だなって。
以来、叔父さんがやってるっていう喫茶店にもよく行くようになったし楓の部屋んにも行かせてもらった。 「桜木君だけだよ。」って赤くなってたっけ。
そしてもうすぐ高校生活が終わる。 そこで「一緒になりたい。」って楓が言ってきた。
軽い女じゃないことも正義感が強過ぎることも分かっている。 それだけに苦労することだって多いんだろうな。
楓から真面目腐ったメールが届いたのは1月2日の朝だった。 「年賀状化。」
俺はというと苦笑しながら返信をする。 「何て書いてやろうかな?」
『あけましておめでとうございました。 今年はお互いに大変な年になりそうだね。
一緒に乗り越えていけたらいいな。 よろしくね。』
そう返してからコーヒーを飲む。 「最近はお節料理も食べないなあ。」
「食べたいなら買っておいで。」 料理を作っていた母ちゃんがそう言って笑う。
今年もいつもと変わらぬ正月が来たようだね。 年賀状もめっきり減ってしまった。
あの時にぶっ壊されたバイクも完全に修理されて戻ってきたし今年はいいことも有るかなあ? 何だかウキウキしている自分が居る。
楓が居るからなのかも? そりゃあ楓と一緒に居るようになってからいろんなことが起きたよ。
国先にすごまれ、島田にはボコボコにされ、その後で矢島とかいう愚連隊のやつに刺されそうになったり、族に絡まれてる楓を助けに行って燃やされそうになったり。
ふつうのやつなら「楓となんか付き合うもんか‼」って言いそうな事件ばかり起きるけどさ、俺は何とも思わないんだよな。 それだけ楓が俺には大事な人なんだよ。
周りの連中には無愛想で冷たい女だって思われてるみたいだけど、俺としてはそっちのほうがいいんだ。 邪魔されなくて済むからな。
さあ1月も7日だ。 今日から三学期だぜ。
進学組は緊張しまくって朝からピリピリしてる。 こんな時に絡むのはごめん被りたいわ。
すんげえ勢いでド噴火するからな。 怖いもんだぜ。
だからって就職組も落ち着いて付き合えたもんじゃない。 内定が出てるやつならいくらかでも落ち着いてるからいいけどさあ。
俺だって楓だって内定にはまだまだほど遠い。 でもなぜかいつも放課後まで残って他のやつらが羨ましがるくらいにお喋りに熱中している。
焦ってないわけじゃない。 二人とも何とかしたいと思っている。
でもさ焦ったってどうしようもない時って有るんだよなあ。 果報は寝て待てって言うだろう。
何もしてないわけじゃない。 求人にもちゃんと応募してるし面接にも行ってる。
ただ相手が選んでくれてないだけ。 選ばれたら飛び上がって喜ぶよ。
でも楓はどうなのかなあ? さすがに安塚の名前じゃあ採らないんじゃないか?
だって安塚と言えば坂本組と付き合いの有る人間だってのは世間の常識だからなあ。
「今日も残ってたんだね?」 本を読んでいたら楓が聞いてきた。
「そうだよ。 少しでも楓の傍に居たくて。」 「ありがとう。 でもいいの? 私と関わったばかりに殴られたり焼かれそうになったりして、、、。」
「いいんだよ。 楓の隣が俺の居場所なんだ。」 「俺の居場所、、、。 嬉しいこと言ってくれるなあ。」
楓のツインテールが揺れた。 最初は変な頭だなって思ったのに、この頃では可愛くてしょうがないんだ。
気持ちが変われば見方も変わるんだなあ。 教えられたよ。
「雪 降ってるねえ。」 「この分だと積もるんじゃないかな?」
「小っちゃい頃は雪合戦とかしたけどお父さんが忙しくなってから全然やらなくなったな。」 「今度、俺とやるか?」
「なんか走って逃げそうだけど、、、。」 「そんなこと無いよ。」
「じゃあやりたいな。」 「よし。 日曜日にやろう。」
「そうだね。 うちの近所にちょっと大きめの公園が有るんだ。 そこに広場が有るからそこでやろうね。」
そうやって雪合戦の予定を組んだ俺たちは昇降口へ下りて行った。 夏の間は開けてある正面玄関も今は閉じられている。
その多少重たいドアを開けて外へ出る。 北風が頬を突き刺してくる。
「寒いなあ。」 そう言いながら楓が俺にくっ付いてきた。
校長たちに見られるとうるさいから校門を出てから楓を抱き寄せる。 (まずは楓を送って行こう。)
俺が右に曲がったもんだから楓は一瞬不思議な顔をした。 「家まで送るよ。」
「うん。 ありがとう。」 それからしばらくは何も話さないまま。
家の玄関を開けたら手を振って俺は背を向ける。 「明日もよろしくね。」
楓の声が俺を追い掛けてくる。 一度振り返ってから歩き始める。
何とまあ暖かい気持ちになるんだろう? これまでは素っ気なく見えていた楓なのに。
寒い道を歩いていく。 バス停にまで来ると次のバスまであと5分くらいだった。
「よう、お前さあ国先をやっつけたんだって?」 「おいおい、俺はそんなことしてねえよ。」
「リーダーから聞いたぜ。」 「島田ってやつが殴りかかってきたから誰かに助けてはもらったけど、、、。」
「島田? ああ、あのアホか。」 「あのアホ?」
「覚えてないのか? リーダーの彼女に手を出してボコボコにされたやつ。」 「ああ、居たなあ そんなやつが。」
「リーダーも喧嘩と煽りは厳禁だって言ってたけど彼女をやられたんじゃ堪んねえよな。 それでやっちまって族を解散したんだ。」
「そうだったのか。 解散にしては速過ぎるなって思ったんだ。」 「お前も気を付けるんだぜ。 彼女も居るんだろうから。」
「いやいやまだまだ居ねえよ。」 「そのうちに作るんだろうから頑張れ。」
セカンドリーダーだって山内孝則だ。 こいつはリーダーの右腕だったやつだよ。
バスに乗ってまたまた楓のことを考える。 あいつが彼女だって言ったらファイヤードラゴンの連中はどんな顔するかなあ?
楽しみでもあり、恐怖でもある。 だって坂本組のお嬢だからね。
「何で組のやつと付き合ってんだよ? 危ない連中なんだぜ。」なんて言ってくるやつも必ず居るはずだ。
そうだよなあ。 なんたって坂本組なんだから。
翌8日は水曜日。 いつも通りに授業が行われております。
国語に英語、数学に音楽、歴史に最後が体育。 「いいか‼ 今日はマラソンをやる。 みんな走れるだけ走ってこい!」
北風が吹きずさむグラウンドをグルグルと何周もする。 終いには何周目なのか分からなくなってみんな混乱している。
「疲れたなあ。」 「喋れるならそんなに疲れてないってことだ。 もうちっと走ってこい!」 池上先生は鬼みたいに笑いながら送り出してくる。
またまた俺たちは走り始める。 楓は必死に俺に付いてくるんだ。
「頑張ったなあ。 ご褒美は無しだぞ。」 「えーーーーーーー? 無いの?」
「違うよ。 梨だよ 梨。」 「木村、お前がみんなに御褒美をくれるのか? みんな喜べ。」
「ワーーーイ。」 「チョチョチョ、待ってよ。」
「何だ? あげないのか?」 「先生も意地悪だなあ。 無しだって言うから梨だって言っただけなのに。」
「まあいい。 早く帰って体を冷やさないように注意しろ。 いいな。」 体育が最後だったからみんなはほとほと疲れている。
喧嘩する元気も無くてそのまま静かに教室へ戻ってきた。 それですぐに帰るかと思ったんだが、ほとんどのクラスメートは居眠りを始めてしまったらしい。
(これじゃあゆっくりと話せないな。) そう思った俺は楓を手招きしてさっさと教室を出て行った。
「みんな残っちゃったね。」 「あれじゃあ落ち着いて話せない。 どっかで時間を潰そうか。」
「じゃあさあスイートに行く?」 「いいね。 あそこなら静かだしマスターも邪魔してこないからいいな。」
みんなが教室で夢を見ている頃、俺と楓はスイートにやってきた。
「おじさん、また来ちゃった。」 「あいよ。 こっちのボックスにどうだ?」
「ちょうどよかった。 話したいことが有ってさ。」 「そっかそっか。 ウェイターにも必要以外は行かないように話しとくよ。」
「へえ、こんなボックスが有るんだね。」 「うん。 滅多に使わないけどさ、、、。」
四畳半ほどの落ち着いた部屋だ。 そこにはコール用の電話が置いてあるだけ。
壁には山の写真が飾られている。 「何処だったかな、ドイツかどっかの山だって。」
「へえ、あれあれ? 書いて有るじゃん。 ドイツのセントビクトワールだって。」 「書いてあったの? 知らなかったわ。」
「失礼します。」 そこにウェイターが入ってきた。
「ご注文はいかがいたしましょうか?」 「そうね、私はレモンティーとショコラ。」
「じゃあ俺はホットコーヒーとショートケーキを。」 「畏まりました。 10分ほどお待ちくださいませね。」
ウェイターが行ってしまうと俺はまた壁の写真に目を移した。 マスターホルンの写真も飾ってある。
「山 好きなのかなあ?」 「さあねえ。 雰囲気を考えてこうしたんじゃないかなあ?」
俺たちがスイートでのんびりしている頃、教室では、、、。 進学組がうざそうな顔をして勉強をしてます。
就職組は、、、と思ったら机に伏したまま寝息を立ててますよ。 時々、進学組の誰かがシャーペンで頬っぺたを突き刺して起こしてるんだけど、、、。
そこへ見回りの先生がやってきました。 「おいおい、ここで寝てるのか? さっさと起きて帰りなさい。」 その声に驚いたのか寝ぼけ眼の就職組は慌てて帰宅準備を始めるのでした。
「桜木君さあ、何で族に入ったの?」 「何でだろうなあ? バイクに乗ってたら「俺と一緒に走らねえか?」って誘われたんだ。」
「誰に?」 「先輩の川崎慎吾さんだよ。」
「え? 川崎さん?」 楓は頓狂な声を挙げた。
「知ってるの?」 「知ってるも何も、、、。 慎吾さんって私の甥だよ。」
「そんな所まで縁が有ったのか。 世の中って狭いなあ。」 「ほんとだね。 なんかとんでもなく広く感じるけど、、、。」
楓はますます思い入れを深くしたみたい。 自分の甥と俺が知り合いだったって知ったんだもんな。
不思議だよなあ。 気付かない所で布石が打たれてるなんて。
もし慎吾さんと出会わなかったら楓とここまで親しくならなかったかもしれない。 大げさかもしれないけど俺はそう思う。
あの文化祭の帰り道、タコ焼きを二人で摘まみながら話したんだ。 「私さあ、桜木君となら一緒になってもいいって思ってるんだ。」
「何で?」 「ここまで私を受け入れてくれた人だから。」
「もっといい人は居るんじゃないの?」 「んんんん、桜木君以上にいい人には会わないよ きっと。」
何で楓がそう思うのかは分からない。 でもここ半年の間にここまで急接近したのは事実だ。
最初は(取っ付きにくいやつだな。)って思ったんだよ。 他のやつと同じくで。
でもさ、国先にすごまれた時、俺は確信したんだ。 守りたい人だなって。
以来、叔父さんがやってるっていう喫茶店にもよく行くようになったし楓の部屋んにも行かせてもらった。 「桜木君だけだよ。」って赤くなってたっけ。
そしてもうすぐ高校生活が終わる。 そこで「一緒になりたい。」って楓が言ってきた。
軽い女じゃないことも正義感が強過ぎることも分かっている。 それだけに苦労することだって多いんだろうな。