シトラスの魔法が解けるまで
苦いシトラスとわたあめの残像

救いのシトラス

スマホの明かりだけが、暗い部屋の中で私の顔を青白く照らしている。
『野いちご』の執筆画面。カーソルが点滅するたびに、私の心臓も同じ速さで脈打っている気がした。
​(……怒ってない。あいつは、怒ってなかったんだ)
​番長に言われた言葉を、頭の中で何度も何度もリピートする。
救われたはずだった。地獄から引き上げられたような気持ちだった。
でも、時間が経つにつれて、その安心感は別の形の「苦しさ」に変わっていく。
​(怒ってないなら……なんであんなに遠いの?)
​私はベッドの上で寝返りを打ち、シーツをぎゅっと握りしめた。
怒っていないということは、彼にとってあの日のできごとは、一週間無視してやる価値もないほど「小さなこと」だったっていうこと?
私があんなに苦しんで、呪いのように抱えてきた一年の重みを、彼は一ミリも共有していなかったのだ。
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