【短編集】あなたのためを思って言っているのよ?
(あたしは今、どこにいるんだろう?)


 数日間移動を続け、アンジュはガストンニュ領に引けを取らないほど大きな街にたどり着いた。ようやくこれで一息つける――そう思ったものの、心も体もボロボロで、見るに耐えない状態なのだろう。人々がアンジュから距離を取っているのがわかる。


(そうよね。どうせあたしは都合のいい――なんの価値もない女だもの)


 これが当然の扱いなのだ。
 もうどうでもいい。どこに行っても変わらない。こんな行動には何の意味もなかった――そう思ったその時だ ドンッ!という大きな音が聞こえ、アンジュは思わず顔を上げた。


「ミゲル様!」

「ミゲルお兄ちゃん!」


 人々が慌てふためき、泣き叫ぶ声が聞こえる。人だかりの側には大きな馬車が一台。馬が興奮したように鳴いており、まだ完全には停車していない。状況から判断するに、どうやら人と馬車がぶつかってしまったようだ。


「血が止まらない!」

「そんな! ミゲル様……!」

「どうしよう! 誰か、神様……!」


 よほどひどい状況なのだろう。絶望に満ちた声が聞こえてくる。


(あたしには関係ない)


 誰がどうなろうと、アンジュの知ったことか。もう二度と、治癒の能力など使いたくない。誰かの都合のいいコマになるのはゴメンだ。けれど――


「ミゲル様!」

「ボク達をかばったから、ミゲルお兄ちゃんが!」

「嫌だ! 嫌だよ!」


 子どもたちの泣き声が聞こえてくる。
 本当にこれでいいのだろうか? 後悔しないだろうか?


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