【短編集】あなたのためを思って言っているのよ?
「――どいてください!」


 気づいたら体が動いていた。人々が驚き戸惑う中、アンジュは横たわっている男性――ミゲルの側に座り、状況を確認する。


(呼吸が――心臓が止まっている)


 だが、今ならまだ間に合う。アンジュはミゲルの心臓に手を当て、力を注ぎ込んだ。


「おい、ミゲル様に触るな」

「ミゲル様に何を……!」


 アンジュを止めようとする人間、引き剥がそうとする人間もいたが「邪魔をしないで!」と睨みつける。そうしているうちに、段々と傷口が小さくなり、出血が収まっていくのに気づいたのだろう。祈るような表情でアンジュを見つめはじめた。


「うぅ……」


 ミゲルが小さく唸り声を上げる。なんとか一命をとりとめたようだ。けれど、まだ油断はできない。アンジュが手を休めれば、一瞬で亡くなってしまうだろう。

 どのぐらいそうしていただろうか? 空腹と疲れでアンジュの意識が朦朧とする中、ミゲルがゆっくりと体を起こした。


「ミゲル様!」

「よかった! 本当によかった!」


 耳元で嬉しそうな人々の声が聞こえてくる。


「僕は一体……」

(よかった)


 もう大丈夫だろう――そう思いながら、アンジュは意識を手放した。


< 35 / 131 >

この作品をシェア

pagetop