利害一致の同情婚 ~カタブツ航空自衛官は契約妻を溺愛する~

もう過去は振り返らない

「雪乃も、今日は仕事だったな?」

「そうだよ」

 契約結婚を持ち掛けられた私は、それからすぐに彼と夫婦になった。一緒に暮すようになって、早くも二週間になる。

 恋愛感情の伴わないとはいえ、夫婦になるのだから打ち解けた関係になりたい。そんな彼の思いに私も賛成で、お互いを名前で呼ぶようになったし口調も自然体にしている。

「雅樹さん、帰りは遅い?」

「いや。なにもなければ、いつも通りだ」

 それなら、十七時には仕事を上がるはずだ。

「じゃあ、夕飯は一緒に食べられそうだね」

「家事を任せっきりで申し訳ないが、雪乃は料理上手だから楽しみだ」

 気を使うわけでもご機嫌取りをするでもなく、これが彼の本心だとわかっている。

 雅樹さんは、思ったことをできるだけ言葉で伝えようとしてくれる。おそらく、不当に傷つけられて自信を無くしている私への配慮でもあるのだろう。前向きな言葉は、私を元気づけてくれる。

 それに彼は、もとから褒め言葉を照れることなく自然と発してしまえる人でもあると、高校時代の付き合いで気づいている。

「じゃあ、いってくる」

 靴を履き終えて立ち上がった雅樹さんが、私の方を振り返る。

「いってらっしゃい」

 どうか今日も無事に帰ってきてほしい。そんなふうに願いながら、仕事に向かう背中を見送った。
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