利害一致の同情婚 ~カタブツ航空自衛官は契約妻を溺愛する~
「君のおかげで、俺は航空自衛官になると決断できたんだ」

「え?」

 あの頃の雅樹さんが進路に迷っていたのはたしかだし、そんな話をしたのも覚えている。

 けれど、彼の背中を押すようなことをした記憶は皆無だ。

「ありがとう、雪乃」

「でも私、先輩の話を聞いただけだよ。ついでに自分の夢まで語っちゃって……」

 若さゆえの奔放さだったと、今ならわかる。

「俺はもう、雪乃の先輩じゃないぞ」

 つい間違えた私を、彼が笑いながら訂正する。

「雪乃はとにかく真っすぐで……くくく」

 なにかを思い出したのか、雅樹さんがこらえきれなかったというように笑いだした。

「俺が弾くピアノを聴いたときの雪乃の反応といったら。これでもかっていうくらい絶賛するから、こっちが恥ずかしくなったくらいだ」

「だって、本当に素敵だったから」

 事実なのにと、わざとムッとしてみせる。
 すると雅樹さんは「ごめん、ごめん」と軽く返してきた。
 申し訳ないとは、少しも思っていないのだろう。私も、本気で気分を害していたわけじゃない。

「裏表のないところは、雪乃の魅力だな」

 思わぬ褒め言葉に、頬が熱くなる。

 高校生の頃、雅樹さんは憧れの存在だった。
 誠実で、なんでも熱意をもって取り組む姿は今でも変わらない。だから、当時の気持ちが鮮明によみがえる。

 そして、契約とはいえ夫婦という関係性が私の感情を惑わせる。
 私たちは恋愛感情を伴わない結婚をした。そう自身に言い聞かせていなければ、うっかり雅樹さんを好きになってしまいかねない。

「ま、雅樹さんは、その誠実なところが魅力ですよ」

 内心をごまかしながら、同じように彼のよいところを挙げる。私の動揺はバレていないだろうか。

 わずかに目を見開いた彼は、それから照れた笑みを浮かべながら首筋を掻いた。

「ストレートにそう言われるのは、気恥ずかしいものだな」

 本当にそうだと私が何度もうなずくと、今度はおかしそうに笑った。

 近くのお店まで買い物に出かけただけなのに、雅樹さんといると途端に楽しい時間になる。食材を選ぶ間も、『こっちの方が美味しそうに見える』なんて冗談交じりに張り合いながら野菜を選び合った。

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