利害一致の同情婚 ~カタブツ航空自衛官は契約妻を溺愛する~
「雪乃ちゃんが幸せそうで、ほっとしたよ」

 翌日になり、出勤した私と顔を合わせるなり祖母が言う。

「急に結婚するって言うから心配もあったけど、東坂さんは本当にいい人なんだね」

 唐突にどうしたのか首を傾げる私に、祖母はくすりと笑った。

「ここに来たときの雪乃ちゃんは、すっかり落ち込んでいたじゃない。当然よね。酷いことをされたんだから」

 忘れてしまいたいと思っていた記憶が呼び起こされる。

 次の仕事も見つからないように手を回されたと知ったときは、力があればなんでもできてしまうのかと怖くてたまらなかった。
 私の悪評は、いったいどこまで広がっているのだろう。それは今でもわからず、以前に住んでいた付近には二度と行きたくないと思ってしまう。

 北海道に来たすぐの頃は、悔しさや不安、怒りなどの入り乱れた感情でどうにかなりそうだった。祖母に隠れて泣いた夜もある。

 でも、ここのところは過去に振り回されることなどまったくなくなっていた。

「東坂さんが雪乃ちゃんを大事にしてくれるから、立ち直れたのね。最近の雪乃ちゃんったら表情も明るくなったし、これまで以上にやる気でいるじゃない?」

 祖母に指摘されて、あらためて気づく。

 雅樹さんと暮らすようになってからは、あの出来事を悪夢に見ることは一度もない。普段もほとんど思い出さないし、いつの間に吹っ切れていた。

「うん。雅樹さんのおかげだね。嫌なことなんて、全部忘れちゃってた。それよりも今は、大変な仕事をしている彼を労わることに忙しくて」

 気恥ずかしさもあって、おどけた口調になる。

「よかったね、雪乃ちゃん」

 喜ぶ祖母に、なんとか笑みを返す。
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