利害一致の同情婚 ~カタブツ航空自衛官は契約妻を溺愛する~
「よかった」

 ふいに会話が途切れたところで、雅樹さんが穏やかな声で言う。

「なにが?」

「雪乃が楽しそうで」

 目を細めた彼の表情があまりにも優しくて、ドキリとする。
 そういえば、祖母にもそんなようなことを言われた。

「私が……?」

 なんとか声を絞りだしたが、胸が苦しいほど高鳴るから言葉が続かない。空いていた方の手で、そっと胸もとを押さえた。

「雪乃は再会したときから明るく振る舞っていたが、それでも時折ふっと浮かない顔をしていたから心配していたんだ。気持ちを晴らしてやりたいと思う半面、俺がいるせいで無理に元気を装わせているのかと」

 そんなことはないと、首を横に振る。

 雅樹さんがいてくれたからこそ、嫌な過去を忘れられた。彼と再会していなければ、私は自分を陥れた人たちを恨む気持ちばかりを大きくしていたかもしれない。

 雅樹さんとの出会いは、私にとってプラスしかない。あらためてそう考えていたところで、ふと不安がよぎる。

 彼は結婚したことで煩わしさがなくなったといっていたが、同時に私の存在が彼の負担になっていたんじゃないか。本来なら自分のために使える時間も、これまでは心が不安定だった私に費やしてくれていた。

「そんな顔をしないでくれ。俺は雪乃との生活を、けっこう楽しんでいるんだぞ」

 よほど情けない顔をしていたのだろう。苦笑した彼は、明るい口調で私の苦悩を吹き飛ばしてしまう。そんな気遣いもまた、私を幸せな気持ちにしてくれる。

「わ、私も、同じだから」

 胸がいっぱいで、声が震えてしまう。
 なんとかそう答えた私に、雅樹さんは「よかった」と微笑んだ。

 硬派な雅樹さんのやわらかな表情を目にするたびに、鼓動が飛び跳ねる。
 プライベートな時間だからこそ、ここまで砕けた様子を見せているのだろう。

 私だけが知っている彼の顔、なんて思うのはおこがましいだろうか。たとえ恋愛感情がなくても、私の前で彼が気を許しているという特別感に浮かれそうになる。

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