利害一致の同情婚 ~カタブツ航空自衛官は契約妻を溺愛する~

不穏な訪問者

「それじゃあ、いってくる」

 玄関で振り返った雅樹さんが、ふわりと私を抱きしめる。途端に視界は塞がれ、ドキリとしながら体を強張らせた。

 特別小柄というわけでもないけれど、背が高く鍛え上げられた体に抱きしめられると私なんてすっぽりと隠れてしまう。

 私の髪に顔を埋めた雅樹さんが、深く息を吸い込む。
 その間は、わずかに身じろぐことすらできない。拘束されているからではなくて、緊張からだ。

「はあ」

 しばらくして、彼が息を吐き出しながら体を離した。

 真っ赤に染まっているだろう私の顔を覗き込み、その大きな手で頭をポンポンとする。満足そうな顔をした雅樹さんは、ようやく私を解放して背を向けた。

「い、いって、らっしゃい」

「ああ」

 扉がパタンと閉まり、雅樹さんが見えなくなった途端に全身の力が抜ける。その場にへたり込み、両手で顔を覆った。

 これまでだって、彼が家を出る際にはこうして玄関で見送っていた。雅樹さんはやわらかな表情で、「いってくる」とだけ残して家を後にする。それがお見送りの流れだった。

 彼は無自覚に甘い言動をする人だと思っていたが、少し前から明らかに甘さが増している。なんというか、まるで想いを通わせたかのような振る舞いが多くなった。

 結婚したとはいえ、手をつないだのだって誕生日のときが初めてだった。あれは夫婦として出かけたのだから、はた目にはおかしくなかったはず。私だけが、想定外の振る舞いにうろたえていたのだけれど。

 昨夜だって……と、夕食時を思い出したさらに頬が熱くなる。

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