利害一致の同情婚 ~カタブツ航空自衛官は契約妻を溺愛する~
 祖母直伝の筑前煮を振る舞ったのは、初めてのことだった。

『これ、美味しいなあ』

 自分ひとりだと、食事はどうしても適当になっていた。でも雅樹さんがいつも褒めてくれるから、作る私も張り合いがある。

『よかった。雅樹さんの仕事は体力勝負だから、栄養面もちゃんと考えてみたんだよ。それに、誰かのために料理をするのがなかなか楽しくって』

 私がカウンセラーの勉強を始めたことは、彼にも話してある。
 それからもうひとつ。栄養学や料理についても学んでみたくて、いくつか本を買い込んできた。趣味と実益を兼ねたようなもので、カウンセラーの勉強の息抜きでもある。

『俺のためにいろいろと考えてくれて、ありがとう。ただ雪乃だって仕事をしているんだから、無理だけはしないようにな』

『大丈夫だよ』

 むしろもっとがんばりたいくらいだと明かしたら、彼はどんな顔をするだろうか。

 食べ終えて食器をまとめていると、先に立ち上がった雅樹さんが私の分まで一緒に運んでくれる。

『あとは私がやっておくから、雅樹さんはゆっくりしていて』

『雪乃にここまで気遣ってもらえて、俺は幸せ者だな』

 彼の言葉がうれしくて笑みを浮かべた私を、戻ってきた雅樹さんがふわりと抱きしめた。

『ありがとう、雪乃』

 しっとりした声音でささやくようにお礼を言われ、私の鼓動はおかしくなったように騒ぎ出す。
 雅樹さんはすぐに体を離したが、それでも彼の腕は私の背中に回されたまま。至近距離から顔を覗き込まれた。

『雪乃に出会えて、本当によかった』

 それは縁談避けに役立てているという意味だよね?という疑問が浮かぶが、言葉にするような余裕はない。頬は熱くなり、きっと真っ赤に染まっているはず。

 戸惑う私にかまわず、雅樹さんはそのまま私の額に口づけた。

 驚きすぎて、目を見開く。

『可愛い反応だな。俺の腕の中に、ずっと閉じ込めたくなってしまう』

 もしかして異性として迫られているのではとあたふたしている間に、今度こそ完全に解放された。

『じゃあ俺は、風呂の用意をしてくるよ』

 動揺するのは私ばかりで、彼は普段通りの口調だ。
 それがちょっと悔しくて、けれど寂しくもあって。小さな棘が胸に刺さったようにチクリと疼いた。 

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