利害一致の同情婚 ~カタブツ航空自衛官は契約妻を溺愛する~
 私の提案を受け入れた女性は、それからマンションの近くのカフェを指定した。
 選んだのは、通りに面したわかりやすい場所ではないことが少し引っかかる。一歩入ったところにある、隠れ家的なお店だ。

「それでは、お待ちしていますから」

 急いで支度を済ませて、お店に向かう。
 目を惹く赤い服が印象的で、女性はすぐに見つかった。

「お待たせしました」

 私と、同年代だろうか。
 目もとは涼しげで唇は少し薄く、凛とした雰囲気の綺麗な人だ。体にぴたりと沿う服装のため、座っていても女性らしい抜群のスタイルが見て取れる。

 雅樹さんは、こんな綺麗な女性といったいどんな関係にあるのか。

「どうぞ」

 促されて、ぎこちない動きで向かいの席に腰を下ろした。
 やってきたスタッフにコーヒーをオーダーして、あらためて彼女と向き合う。

西崎(にしざき)沙良(さら)と申します」

 その表情に、笑みはいっさい浮かんでいない。私によい感情を抱いていないようだと察して、わずかに身を強張らせた。

「東坂、雪乃です。今日はどんな御用で?」

 私が名乗ると同時に、彼女の片方の眉がわずかに吊り上がる。

 なにが気に障ったのか見当もつかず、慎重に様子をうかがう。ひとまず自分を落ち着かせようと、運ばれてきたカップに手を伸ばした。

「雅樹を返してもらいたくて、あなたに会いに来ました」

「え?」

 モニター越しにこの女性を見たときから、もしかしてという予感はあった。

 雅樹さんは、健康な若い男性だ。結婚はしないと決めていても、交際相手がいなかったわけではないだろう。あれほど素敵な人だから、将来を約束できない関係でもいいという女性はそれなりにいると思う。

 西崎さんが彼のマンションを知っていたのは、何度も訪ねてきた仲だったからかもしれない。そう想像すると、ズキリと胸が痛んだ。

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