利害一致の同情婚 ~カタブツ航空自衛官は契約妻を溺愛する~
「変わりはなかった?」

「うん。いつも通りだよ」

「そうか」

 私を解放して、廊下を進む。その後に、いそいそと続いた。

「職場で、ニンジンを使ったパウンドケーキを教えてもらったの。試しに作ってみたから、食後に出すね」

 西崎さんとのことを悟られないように、努めて明るく振る舞う。

「それは楽しみだ。だが、無理はしていないな?」

 振り向いた彼に、ギクリとする。一瞬のその反応は伝わってしまった。

「なにかあったのか?」

「ううん。そういうんじゃなくて……。なんだか、カウンセラーの勉強に身が入らなくて。ついついお菓子作りに逃げちゃったなあって」

 集中できなかったことも、お菓子作りで気を紛らせていたのも事実だ。その理由は西崎さんの存在だと、明かすつもりはないけれど。

「まあ、そんなときもあるさ。焦らず、雪乃のペースでやっていけばいい」

「もう! 雅樹さんは私に甘すぎる。気合でがんばれとか、言ってもいいのに」

「がんばってほしい以上に、無理をさせたくないだけだ」

 困ったような笑みは、心から私を心配しくれているように思う。

 彼に疑わしい素振りは見られなくて、密かにほっとしている。やっぱり西崎さんとの関係はもう終わっているのだと、彼を信じたい。

「雪乃の手料理を、ずっと楽しみにしていたんだ。さっさと着替えてくるよ」

 本当に、私が隣にいてもいいの?
 聞きたくても怖くて聞けない。そんな思いを隠して、いつも通りに振る舞っていた。

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