利害一致の同情婚 ~カタブツ航空自衛官は契約妻を溺愛する~
 雅樹さんが纏っていたソープの香は彼女の家のものだったのだろうかと、不安に視線が揺れる。

「結婚してしまったのだからって、愛してもいない妻と居続ける雅樹がかわいそうじゃない」

「かわい、そう……」

 彼はいつだって私を気にかけて、ふたりで過ごす時間を大事にしてくれる。それは雅樹さんにとっては我慢の積み重ねで、苦痛だったのだろうか。

 彼女の言葉に揺らぎそうになるが、そうじゃないとかぶりを振る。
 私はまだ、彼の口から気持ちを聞いたわけではない。

 でも、それを言い訳にするのはおしまいにする。
 別れ話から逃げたくて先延ばしにしすぎたかもしれないけれど、雅樹さんのことを思うのならもっと早くに勇気を出すべきだった。

 足もとに落としていた視線をそっと上げる。私と目が合うと、西崎さんは見下したようにフンっと鼻で笑った。

「わかりました」

 彼女を刺激しないように、慎重に言葉を選ぶ。
 毎日のようにここまで来ていたくらいだ。まだ見せていないだけで、西崎さんは苛烈な人かもしれない。私への恨みの感情も大きいようだから、ひとまずここは穏便に済ませたい。

「次の雅樹さんの休日に、彼ときちんと話をしようと思います」

 あえて別れ話をするとは言わなかったが、彼女がそこに気づいた様子はない。その瞳には、喜びの感情が浮かんでいる。

 彼との話し合いが、どんな結果になるかはわからない。
 私の存在が本当に雅樹さんを苦しめているのだとしたら、このまま放置してはいけない。

「必ずよ」

 そう念を押した後、彼女が満面の笑みを浮かべる。

「ああ、これでこそこそ隠れずに雅樹と会えるのね」

 結果はすでに決まっている。そう確信した彼女の言葉に、不安でいっぱいになる。

 この人の言い分をすべて信じているわけではない。ただ、彼女に不貞を犯していたという後ろめたさは微塵もないようだ。それが不思議でならなかった。

「それじゃあ、できるだけ早くに別れてちょうだいね」

 機嫌よくそう言った西崎さんは、片手をひらひらと振ってこの場を後にした。

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