利害一致の同情婚 ~カタブツ航空自衛官は契約妻を溺愛する~
「早く帰ってこないかな」

 焼き上がるのを待つ間は、レシピ本をぼんやりと眺めていた。次はなにを作ろうかと、少しだけ気持ちが上向きになる。

 時刻は二十二時を回っている。
 しばらくして焼き上がったパウンドケーキを取りだしたタイミングで、つけっぱなしにしていたテレビから速報のジングルが響いてきた。

「今日の夕方、北海道付近の日本領空に外国の偵察機が侵入……って、え?」

 慌ててテレビに駆け寄る。
 雅樹さんと再会する間だって、そんなニュースは何度も見聞きしている。怖いな、大変だなと漠然と感じていたが、当時とは比べ物にならないほど大きな恐怖を抱く。

「まさか、雅樹さんが対応してる?」

 緊急事態にスクランブル発進をするのは、彼の仕事のひとつだ。
 この時間になっても、連絡ひとつ入っていない。彼がこの件に関わっているのは、疑いようがないだろう。

 さらに情報はないかとインターネットでも調べてみたが、詳しいことはなにひとつわからない。

 しばらくして、ようやくニュース番組で報道が始まった。

【今日の夕方頃、北海道付近の日本領空に外国の偵察機とみられる航空機が侵入しました。防衛省によりますと、事態を受けて航空自衛隊の戦闘機がスクランブル発進を行い、しばらく追尾をしたということです。この際、不審機は無線機での呼びかけにも応答しなかったようです】

 日本の領空に相当長くとどまっていたようで、専門家がその悪質さを解説している。

 背中に冷たい汗が伝う。
 彼の選んだ職業が命の危険が伴うものだと知っていたはずなのに、危機を初めて目の当たりにしたら怖くてたまらない。

「お願いだから無事でいて」

 胸の前で手を組んで、必死に祈る。

 戦闘機にひとりで乗り込む雅樹さんは、どれほどの恐怖を感じているだろうか。極限まで緊張を強いられる彼を思うと、胸が苦しくてたまらなくなった。
< 71 / 91 >

この作品をシェア

pagetop