利害一致の同情婚 ~カタブツ航空自衛官は契約妻を溺愛する~
「――それで、私に雅樹さんと別れるようにって。で、でもね、彼女の言葉を信じたわけじゃないのよ。だって雅樹さんは誠実な人だから、けじめもつけずに後ろ指をされるようなことをするはずがないってわかっているから。その、元カノだったのかなあと……」

 気まずさもあって言葉を濁す。

「……はあ」

 視線を下げていると、しばらく後に頭の上から大きなため息が聞こえてきた。

「そんな事態になっているとは。気づいてやれずに、すまなかった。話を聞いてくれ、雪乃」

 そっと顔を上げて、目が合った彼にコクリとうなずいた。

 それから彼は、西崎さんが話していた通り、スリに遭ったところを助けたのをきっかけに彼女と知り合ったと教えてくれた。

「二度目に顔を合わせたのは、雪乃と再会した辺りでジョギングをしているときだった。お礼にと焼き菓子を受け取ったかな。いつか会えたら渡そうと、持ち歩いていたそうだ」

「ずっと持ち歩いていたのが、食べ物って……」

 自分では選ばないと首をひねる私に、雅樹さんもうなずく。
 綺麗にラッピングされていたが、どうも手作りのようだったという。彼女の雰囲気や言葉に違和感を覚えて、それは食べていないそうだ。

「三度目は、何度か一緒に行ったあのカフェだ。繰り返し顔を合わせたのは偶然だと向こうは言っていたな」

 それからというもの、行く先々で彼女と遭遇するようになった。

 お礼はもう受け取ったからこれ以上は必要ないとやんわり拒絶したところ、交際を迫られるようになる。対する雅樹さんは、その都度きっぱり断っていたという。

「自宅に何度も押しかけられた。おそらく、後をつけ回していたんだろうな。職場にまで連絡を入れてきたのは、さすがにやりすぎだ。念のために付き纏いとして警察に相談実績を残していたが、最終的には弁護士も入れて接近禁止となっている」

 つまり彼女は、ストーカーだったのか。

「あちらの家族に見張らせている間に引っ越しもしたが……ここも知られたか。危険な相手と遭遇することになってしまって、すまない。あらかじめ、雪乃にも話しておくべきだった」

 頭を下げる雅樹さんに、あなたが悪いわけじゃないと否定する。
 実際、接近禁止になってからはあの人を見かけていなかったというのだから仕方がない。
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