利害一致の同情婚 ~カタブツ航空自衛官は契約妻を溺愛する~
 あっという間に季節は秋になった。

 雅樹さんは相変わらず不在な日が多いけれど、職場の同僚や官舎で知り合った人たちと過ごしていれば、以前のように不安に押しつぶされそうにはならない。周囲に恵まれたおかげで、気持ちの整理を上手くつけられるようになってきた。

「準備はできたか?」

「うん。行こう」

 夫婦そろって休日の今日は、新千歳空港へ映画を見に行くつもりだ。

 雅樹さんの運転で、目的地に向かう。空港は彼の職場の隣に位置し、官舎からも近い。
 そういえば、空港へは北海道に来たとき以来一度も行っていなかった。

「そんなものかもな。俺も、プライベートでは帰省のときに行くくらいか」

 それなら今日は空港内で食事やショッピングも楽しもうと、この後の予定がますます楽しみになる。

 車を降り、隣に立つ雅樹さんに腕を絡ませる。私たちは本当の夫婦になったのだからいいでしょ?と彼を見上げると、穏やかな笑みを返してくれた。

 早速、映画館へ向かう。
 今回選んだのは、ある画家の半生を描いたドキュメンタリータッチの作品だ。
 貧困の時代から支えてくれた女性との変化する関係。色覚障害になりながら、描くことをやめなかった絵画への執念。
 彼の描く華やか作品や落ち着いた世界観からは想像のできない激動の半生に、鑑賞している途中から知らず涙を流していた。

 作品を見終えて立ち上がろうとしたとき、隣から雅樹さんがハンカチを差し出してくれる。ありがたく受け取り、目もとを拭った。

「いい映画だったな」

「うん」

 しんみりとしても、決してふたりを取り巻く空気は気まずいものではない。なにも言わなくても余韻を共有できる関係が、切なさを感じていた胸を温めてくれる。

「また、来ようね」

「ああ。なにを見たいか、俺も考えておくよ」
< 87 / 91 >

この作品をシェア

pagetop