利害一致の同情婚 ~カタブツ航空自衛官は契約妻を溺愛する~
* * *

「すごいです、先輩! 先生の演奏だと思っちゃいました」

 高校に入学してしばらくした頃。音楽室に忘れ物をしたと気づいて、放課後にひとりで向かっていた。
 近づくにつれて、ピアノの音が聞こえてくる。難しい曲なのに難なく弾きこなす上に、やわらかな音色がとにかく綺麗。さすが音楽の先生だと、惚れ惚れしていた。

 邪魔をしないように、そっと扉を開けて中を覗く。
 そこでピアノを弾いていたのが、東坂先輩だった。

「音色は綺麗だし、めちゃくちゃ難しい曲を涼しい顔を弾きこなして。私、感動しました!」

 とにかくレベルの高い演奏だったと、弾き終わった彼に感じたままハイテンションで伝える。

「ありがとう」

 彼は照れくさそうに笑った。

 背が高く、いかにもスポーツをしているといった体つきの男の先輩が、こんなにも繊細な音色を奏でるなんてまるで真逆の印象だ。
 なんてのんきに考えていたところで、ふとこの男性が誰かに思い至る。

「もしかして、東坂先輩ですか?」

 わずかに目を見開いたのは、私が彼を知っているとは思わなかったからだろう。すぐに、そうだと返してくれた。

 鋭い目もとに、筋がすっと通った形のいい鼻。いかにも硬派という顔立ちだが、さっきのように笑うと途端に親しみやすい印象になる。
 部活関係の大会で何度も表彰されている上に、この整った外見だ。彼は学年を越えて有名で、私の友人たちも「カッコいい!」とよく騒いでいる。

 私は遠目にしか見たことがなかったから、本人かどうか半信半疑だった。たしかに皆が騒ぐのも納得の容姿をしている。
 友人たちによれば、彼は成績も学年トップをずっと維持しているのだという。
 どこまでも完璧で、さらにピアノの才能まであるなんて知らなかった。
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