蝶よ花よ、あこがれに恋して
「…………え?」
私の言葉に、桜庭さんはおどろいたように目尻を上げた。
「私は平気なので、桜庭さんはチームメイトの方と楽しんでください!」
「(……そうだよね、きっと、これがいいよね)」
そう思うことにした。というか、そう思うしか出来なかった。だって、約束も何もしていなかったのだ。私が勝手に張り切っていただけなのだ。
桜庭さんはしばらく言葉を溜めては「……分かった」と、頷いてくれた。うん。これでいいよね。
「では、心鈴は帰宅しますね!」
「あ、待って。表は危ないから裏口から出て、タクシー呼ぶから」
「…………はい!ありがとうございます」
桜庭さんの気遣いをありがたく受けとり、タクシーで帰路に着いた。桜庭さんは私を送ると言ってくれたけれど、チームメイトを待たせて欲しくないので、一人で帰宅した。それがきっと最適解だった。
「いやいや、ショックが大きいよー…………」
帰宅は夕方だった。家に入ると準備していたテーブルウェアとキッチンの至る場所に完成間近の料理が待ち構えていた。
桜庭さんは1ヶ月なんて気付いていない。というか記憶にすら無いだろう。自分ばかりが気合いを入れていた、という事実が遅れて押し寄せてきて、なんとも言えない共感性羞恥に襲われた。
「この量、一人で食べれるかなあ……」
……そうだ、こういう時のためのイブがいるじゃないか。
思いついた私はスマホを手にした。
《イブ、今日お暇ですか》
《暇じゃない》
《彼氏と食べる予定のご飯があるけど、食べませんか》
《食べません》
しかし、幼なじみに秒で断られてしまい、愕然とした。