蝶よ花よ、あこがれに恋して
帰宅した直後は平気だったけれど、じわじわと時間が経過し、実感してしまえばもうだめだ。そろそろキノコが生えてもおかしくない。この際、料理は明日に回せば何とかなるとして。
「(さすがにケーキは食べないとなあ)」
冷蔵庫の中にあるケーキを取り出した。可愛いオーナメントで飾られた、生クリームたっぷりのケーキ。せっかくなのでケーキスタンドに乗せた。うん、可愛い。可愛いけど、食欲はゼロに等しい。
美味しいと思わなきゃ、食材に失礼……。
ため息を落としては床に座り込み、ベッドに両手を投げ出して項垂れた。
「お祝い、したかったなあ」
私の独り言はお布団の中に吸い込まれる。
ううん、ていうか、昨日の時点で桜庭さんにスケジュールを確認するんだった。どれもこれも、私が一人で突っ走った結果だ。
「あぅ……、恥ずかしい……」
両手に顔を埋めてじたばたとし、もう一度ため息を吐き出した。目を閉ざす。出来ることなら時間を巻き戻したい。うんとたくさん巻き戻さなくていい。今朝、桜庭さんを見送った朝まで。ううん、一時間でも、二時間でもいい。
運がいいことに、私は、自分の言葉を届ける方法を、人よりもたくさん持たせてもらっているから。
今日の夜、私にすこしだけ時間をくださいって頼むんだ。
ほんの少しだけでいいから……。