蝶よ花よ、あこがれに恋して


「や、やっぱり、ちょっと待ってください!」

今桜庭さんが部屋に入ったら、こそこそ準備していたことがバレるのでは……!?

それに気付いた私は、リビングに繋がる扉の直前で手を大きく広げて、桜庭さんを通せんぼするみたいに立ちはだかった。

「桜庭さん、今日は帰りましょう。試合後だし、桜庭さんはお疲れですし!」

かなしい。なぜ招き入れたのに、嬉しいはずなのに、追い返さなければならないのか。

「俺、全然疲れてないよ」

前も言ったけど、と桜庭さんは続ける。確かに、全く疲れは見えない。

「そ、それに……えっと、いま、お部屋の中が悲惨なほど散らかってまして……桜庭さんも、きっと寛げないだろうし」

「朝、すげえ綺麗だったよ?」

「違うんです、あのあといろいろあって、目もくれない状態でして……その……」

苦し紛れの言い訳をたくさん並べようとすれば、その隙に、両手を広げた私を抱え込むようにして抱きしめた。

「……っ!」

無防備な状態で抱きしめられるとは思わず、驚いて身体を緊張させた。

「さ……桜庭さん」

肩口に埋められたふわふわの髪の毛がくすぐったい。

「……ごめん、今日は心鈴ちゃんと一緒にいたい」

桜庭さんが聞かせたのは弱々しい謝罪だった。
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