蝶よ花よ、あこがれに恋して
彼と別れて、とてもじゃないけれどしばらく恋愛はしたくなかった。
短大を卒業後、就職したのは病院だった。入社して早々人手が足りず、残業が続いて精神的にも肉体的にも疲弊していた時、声をかけてくれた人がいた。同じ病院に勤務する、年の離れた外科医の人だった。
以降何かと気にかけてくれて、休みの日に二人で会うことも増えて、博識でデートもスマートな彼に惹かれていった。好きになっていいかと聞けば、良いよと答えてくれた。嬉しかった。幸福だった。
彼との恋愛は波風も立たず、おだやかに過ぎた。
ただ、稀に。約束を有耶無耶にする彼に少しずつ不安が募って、これじゃいけないと、もっと好きになってもらおうと、私の脳はまた、悪い毒に充てられた。
何かのお礼に手作りのものを贈ったら困惑された。
彼が私の家に来る頻度も、滞在時間も短くなっていった。
重たくならない。
気にしすぎない。
嫌って言わない。
会いたいも言わない。
いつも彼を優先する。
──『心鈴ってさ、プライベートの全部を聞かないと気が済まないの、もう、正直付き合いきれないよ』
呪文のように我慢したけれど、結局は彼との恋愛も私の方が好きになりすぎて、見返りを求めすぎて、呆気なく終わった。
私のどこかに、いつも存在していた悪い毒がじわじわと思考回路を侵略する。