蝶よ花よ、あこがれに恋して
桜庭さんの身体が不意に離れた。離して欲しいと願った時には離れてくれなかったのに。
「違うんですよ。たまたま、そう、昨日気づいたんです。気づいたからには、ちょっと作ってみようかなって、軽い気持ちで作ったら、手が込んじゃっただけで……」
へっちゃらな声で。下手くそな笑顔をプラスさせて。何ともない、偶然の賜物を演じたけれど、桜庭さんは私の言葉を遮ると、キッチンへ向かった。
「桜庭さんっ」
私の静止には答えてくれなかった。慌てて追い掛けたけれど、冷蔵庫を開ける桜庭さんの手を止めることは出来なかった。
違うんです、私が勝手にやったことで。
「昨日気づいて、ここまで準備出来ないでしょ」
喜んで欲しいとか、期待してないんです。
ただ、大好きなだけで。
「……ごめんなさい」
私の大好きなのは我慢しなきゃ駄目なのに。
「ごめんなさい、もう、しないです。……記念日で浮かれるのは学生迄ですよね、分かってます、わかってるんです……」
だから推そうって、推しにした方が傷つかないし、私の毒で傷つけないし、だから。
桜庭さんの瞳が細くなるのを見て「き、」と、吐き出した声と一緒に、蛇口を捻ったみたいに涙が零れた。
──……「嫌わないで……」