蝶よ花よ、あこがれに恋して
手先が震えて、血の気が引いて、嫌われたらどうしようって不安が私の体温を奪っていく心地がした。
「……!」
私の身体は桜庭さんの両腕にすっぽりと抱きしめられた。息継ぎを待たずして私を抱きしめる、桜庭さんの腕に迷いなんてなかった。
「…………ごめん」
なんで桜庭さんが謝るのか分からずに「……桜庭さん?」と、名前を呼ぶ。背中に回された手に力が込められるのを感じた。
「飲み会断らなくて、昨日一緒にいたのに気づいてあげられなくて、俺もちゃんと覚えていたのに、一言も言えなくて。今日は真っ先に帰るんだった。……ごめん」
一つ一つ、丁寧に紡がれる言葉はあたたかくて、私の中でじんわりと消えて。
「お、覚えてくれてたんですか?」と、驚くと、桜庭さんは小さく「……一応」と頷いてくれた。その一言が私にとっては宝物みたいに柔らかい温もりをもたらした。
「そうなんですね……嬉しいです」
へへっとはにかんで笑うと、桜庭さんは身体を離し、親指は頬に触れた。私の涙のあとを撫でるような、優しい指先だった。
「俺、多分付き合い方が上手じゃなくて。仕事と彼女だったらサッカーをとってたし、チームメイトを優先してた」
「それは当然です!私を優先したら、怒ります!」
これは本音だ。嘘じゃない。私がいることで。桜庭さんの重荷や邪魔になってはならない。そんな存在になるくらいなら別れる。