蝶よ花よ、あこがれに恋して
「いや、今のは昔の話ね」
私の中に、明確に存在していた優先順位を告げたのに、桜庭さんにとっては違うらしく、「……昔?」と首を傾げると、彼は静かに頷いた。
「そう。今は、心鈴ちゃんのことが同じくらい大事。ていうか、大切にしたい」
「…………!」
「……だから、俺がいない時に、俺が誰と一緒にいるか心鈴ちゃんは知っていた方が安心かなと思ってチームメイトに紹介しようとしたし、家族に合わせるとか、あと……結婚とか。心鈴ちゃんの気持ちも考えずに、急ぎ足になってごめん」
桜庭さんはお世辞にもお喋りが多いとは言えない。寧ろ少ない方で、だからこそ桜庭さんの言葉は嘘じゃないと思えた。
「私、桜庭さんの気持ちを重いとか負担とか、そんなふうに考えたこと、一度もないです」
桜庭さんが謝る必要は無いのに。そんなことないのに、嬉しいのに、桜庭さんからの気持ちはいつも、いつだって私を動かす理由になるのに。
「俺も同じだから、心鈴ちゃんが申し訳ないなんて思う必要は無いよ。そのままでいて欲しいし、我慢されるほうが、俺はキツい」
ああ、どうしよう。
私を認めてくれる人がいる。
好きな人が、世界でいちばん愛おしい人が、私のことを受け止めてくれる。
こんな幸せがあるだろうか。