蝶よ花よ、あこがれに恋して
「桜庭さん!」
早さを増す鼓動は福音となって、駆け寄る起因となる。
「うん。今日もお疲れ」
仕事帰りに桜庭さんがお疲れと言ってくれる世界、幸せだ……!
「桜庭さんもお疲れ様です。あれ、でも外出しているって……」
「心鈴ちゃんの迎えに外出中」
「(そういうことですか)」
桜庭さんの意地悪だって愛おしい。
へらっと笑って、それから桜庭さんの隣に並ぶ。閑静な住宅街はこの時間、静寂と夜の闇に包まれている。
「わざわざ会いたいって、何かあった?」
そんな静まり返った世界で、高い位置から桜庭さんの声が落ちて、要件を思い出した。いけないいけない、桜庭さんと一緒にいると、一時的な記憶障害を生じることが多々ある。
「あ、そうでした。実は私の幼なじみのことで」
「幼なじみ?ああ、イブって子」
「そうなんです。イブとは親同士が仲良くて、幼稚園の頃良く遊んでました。私とイブ、それからもう一人、三人で今でも仲が良くて、イブと二人で会うことも多いんです。ただ、イブのことはしばらく女の子って認識してたからかなあ、未だに男友達って感覚がなくて、良くお家に呼んだり二人で飲みに行くこともあって……」
「待って。……男?」
「はい。イブ、昔は可愛かったんですよ〜。お目目がくりくりで、天使みたいで」
イブの説明をプラスさせるけれど、桜庭さんの表情は晴れないばかりか、興味がなさそうに、「ふうん」とか「へえ」とか、そんな相槌を貰うだけだ。