蝶よ花よ、あこがれに恋して

歩いていたのに、突然、目の前が遮られた。私を覗き込む双眸と出会う。

「イブってやつの片想いの相手って、心鈴ちゃんじゃないよね」

「私?まさか、違いますよ」

「どうして言い切れる。根拠は?」

「だって、イブの好きな子は……」

「そう説明されているだけでしょ?」

桜庭さんはうっすらと微笑んだまま、私の頬を両手で包み込むようにして捕らえると、唇まで届くかの距離まで詰め寄った。

おばかな私は、そこでようやく気がついた。

「本当に、危機感がない」

桜庭さんの目が笑っていないのに、不謹慎にもその表情すら綺麗で、私の心はどうしようもなくときめく。

「心鈴の恋人は" 桜庭さん "だって、自覚して」

普段見せられない表情。言われるはずのない言葉。

返事の代わりにこくりと何度も頷くと、桜庭さんは「帰ろう」と、私に左手を差し出した。外で手を繋ぐこともまた、普段の桜庭さんであれば考えられない。

これ、もしかして……、

「(嫉妬?)」

いや、まさかね……?

「今日は俺ん家でもいい?」

「あ……でも私、まだ夜ご飯たべてなくて」

「パスタソース作ったから、あと茹でるだけ」

「さ、桜庭さんの手料理をご馳走になって、良いんですか……!?」

「ご馳走って程じゃないけど」

「カップ麺でもご馳走です!!」

「はは、喜ばせ甲斐があるなあ」

そうなんです。桜庭さんは私を喜ばせる天才なのです。
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