蝶よ花よ、あこがれに恋して
その日桜庭さんはベッドの中でひどく優しかった。優しさは時に残酷になる、私が知ることも、体感することもなかったその現実を目の当たりにした。
彼は優しく私を追い詰めて、私の思考を攫った。
そこはやめて欲しいと強請る私の要求を尽く無視し、執拗に私の弱い場所を攻め続けた。シーツは濡れて、ごめんなさいと泣く私に、可愛いとキスをし、私を甘やかした。こんな顔、可愛くないはずなのに……と、悩む暇も与えられないばかりか、疲れ果てた私は、いつ眠ったのかさえ覚えていない。
朝起きると当たり前に桜庭さんは隣にいて、昨夜は桜庭さんが夕食を振舞ってくれたので朝食は私がご馳走した。
週末、イブは桜庭さんと会ってくれた。イブと良く利用する居酒屋にて、先に居酒屋に入店していたイブの元へ、桜庭さんと共に向かう。
「はじめまして、イブくん。今日は俺のわがままに付き合ってくれてありがとう」
王子様よろしく満面の笑みで挨拶をする桜庭さんがかっこよすぎてイブが羨ましいとさえ思った。
「いや、おい、ちょっと待て、ちょ…………桜庭志邑じゃん」
第一声、イブは狼狽していた。
「イブ、桜庭さんのこと、知ってるの?」
「知ってるも何も、逆に、どうすれば桜庭志邑を知らない人生を送れるんだよ」
「え…………?どうだろう」
「くそ、世間知らずめ……」
イブは悪態をつきながら「はじめまして、伊吹慧です」と、桜庭さんに挨拶をした。