蝶よ花よ、あこがれに恋して



桜庭さんは私の隣に腰掛けていたのに、何故か立ち上がると、私の目の前で腰を下ろした。まるで私に跪くように。だから私もソファーから下りようとした。心鈴ちゃんはそのままで、と私を止めたのは桜庭さんだ。


「どうしたんですか?急に」


いつもと確実に違うその光景に、私は思わず、くすりと笑った。柔らかい表情の彼は、まなざしだけが真剣そのものだ。


「うん、少し、大事な話」


改まって宣言された、大事な話。
私の脳裏には、いつかのあの日私の写真が拡散されたことが一番の事件だった。他は、そうだな、冬稀さんのこと?

冬稀さんが突然桜庭さんの家にやって来て、口から心臓が飛び出そうになった。『心鈴ちゃん、今日も可愛いね』と、早速褒められて、うっかり昇天しかけた。

『おまえなに酔ってんの』

桜庭さんにとって冬稀さんは友人なので、冬稀さんが酔っていることもお見通しだった。

『全然酔って無い。ねえ心鈴ちゃん』

『はい!今晩も素敵です!』

アイドルに同意を求められたので素早く頷くと『早く帰れ』と桜庭さんは辛辣だ。

『サクが冷たい。心鈴ちゃん、こいつ酷いよね』

『いえ、桜庭さんはいつも優しいです』

『俺にも優しくして』

『俺はいつも優しいわ』

『全然足りねえよ〜……』

気ままに冬稀さんはダイニングの椅子に腰掛けると、テーブルに突っ伏した。酔っているというか、弱っているというか。

『(こういう時こそ、美味しいものを食べるべきじゃない……!?)』

閃いた私は早速準備に取り掛かろうとした。しかし、冬稀さんが眠るほうが早かった。
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