蝶よ花よ、あこがれに恋して
冷たいと非難されながらも、座ったまま眠る冬稀さんに、呆れた顔をしつつブランケットを掛ける桜庭さんは、やっぱり優しい人だと思う。
ごめんね、と謝る桜庭さんに、仲が良いですね、と答えた。静かに微笑む桜庭さんの横顔が寂しげだった。
『ごめん、強制的に巻き込む』
『……?何をですか?』
『冬稀、ずっと片想いしてんの』
それはトップアイドルの恋愛事情で。
──俺がご近所さんを口説くような男なら、サクは同じ日にチケットを取らないよ。
同時に冬稀さんから貰ったあの言葉を裏付けとも言えた。
『……片想い、ですか?』
けれど、そうだとしても、冗談だと思った。なぜなら冬稀さんはアイドルで、確かにミステリアスな雰囲気は認めるけれど、こと女性関係に関して苦労をしたことがないというか、片想いなんて言葉が世界一似合わないひとだからだ。
『音信不通で、生きてるのかさえわかんない相手に、もうすぐ八年』
八年……?八年って……冷静に考えてもうすぐ義務教育が終わるんだけど……
桜庭さんは冗談を言う人じゃないって分かっていたはずなのに、上手に飲み込めなかった。
『腹を括ったのは冬稀だし、傍から聞けば美談かもしれないけらど、実際は八年も過ごせばままならないことも当然あるわけじゃん
焚き付けたのは俺だから面倒はみるけど、そうなる度に家に来て、はた迷惑な話だよな、普通に』
悪態を吐くその横顔は優しい。