蝶よ花よ、あこがれに恋して



『……やっぱり、桜庭さんは優しいです』

すやすやと寝息を立てる冬稀さんの背中を見つめながら、ぽつりと呟く。

『……今、優しいこと言ったっけ』

怪訝な目を向ける桜庭さんに、はいと頷いた。

『八年も、冬稀さんの意志を尊重して、応援されてるんですよね。同じ人を思い続けるなんて並大抵の努力じゃないですよ。強い日ばかりじゃないでしょうし、誰かが支えないと絶対に難しい。弱くなった冬稀さんの近くに居続けたのは、桜庭さんなんですね。 私、本当に素敵な人を好きになったなあ』

同じ人に、何度目かわからない恋に落ちると、『同じセリフだよ』と言った桜庭さんは口元を手で隠していた。


「あの、冬稀さんのことなら安心してください。私、絶対に言いませんから!」


大事な話、と言われて桜庭さんの大事な人である冬稀さんが過った。冬稀さんといえばあの日聞いたトップシークレット。もしどこかでその話が漏れたとすれば私は無実だ。なぜなら墓場まで持っていく所存だからだ。

「……冬稀?」

「はい。冬稀さんの片想いの件についての口止めですよね!お任せください。酔っても言いません!」

「違うよ。冬稀じゃなくて俺のこと」

「……桜庭さんの?」

まっすぐに見詰めていた桜庭さんの目が伏せられ、もう一度向けられたその瞳に射抜かれる。

私の大事な人が、大切ななにかを、私に伝えようとしてくれている。


「移籍の話が来てる」


──移籍?

当たり前に聞きなれないワードだった。
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