蝶よ花よ、あこがれに恋して


何処に移籍するのか。

まだなにも聞かされていないのに、移籍先が遠くだってわかる。遠距離、というワードが容赦なく過ぎるのは必然で、だからこそ私と手を繋いで、慎重に言葉を紡いでくれているんだって。


「あ……の、私、どこでも駆けつけます!いつでも、すぐにでも!」


桜庭さんは悲しそうな笑みを浮かべた。大丈夫だよと伝えたかった。私が足枷になってはいけない。可能性を潰すなど、そんなことあってはならない。桜庭さんのことは一番に応援したい。それが私の使命。


「あと、こう見えて我慢強い性格なので、遠距離でも平気です」

「……遠距離」

「はい!平気ですよ!会いたい時に、会いに──……」

「ドイツなんだよ」

あろうことか。私としたことが。

「…………っぇ、」

──……怯んでしまった。

ああ、言葉が出てこない。
喉元に溜まるだけ溜め込んで、出ていこうとしない。

「ドイツなんだ。海外移籍なんだ。すぐに会いに行ける距離でもない。今後俺は、心鈴ちゃんの言葉を疑えない。寂しいとき、心鈴ちゃんが寂しくないと言っても、その言葉を信じるしかできない。 そんな場所に、行こうと思う」

笑え、笑うんだ。

「……っ」

そうなんですね。
がんばってください。
応援してます。

私なら、平気です。

笑って、ちゃんと言うんだ。

「今のは報告のようなもので、ここからは、俺から個人的なお願い」

どうしても、上手に笑えなくて四苦八苦している私の手を、桜庭さんはいっとう握りしめた。視線が絡み合う。何か、強烈な意志を孕んだ、力強いまなざしだった。

応援、分かってる、応援するんだよね。

それとも、別れて欲しいと言われる?

ドイツ移籍の邪魔になるから、別の──……

「……心鈴ちゃんも、俺と一緒に来て欲しいと思ってる」
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