蝶よ花よ、あこがれに恋して


「それより桜庭さん、ファンサしないんですか?」

美顔器を受け取って、同じ方向に帰る。先程の気になる話を掘り下げると「しない。苦手なんだよね」と、桜庭さんはあっさりと教えてくれた。

でも、それって、アイドルとして致命的なのでは?

「ええ……桜庭さんのファンサ、見てみたいなあ」

「俺からファンサもらってなんになるの?」

致命的以前に、ファンサの何たるかを知らないらしい。

「私の、明日の、活力になります!!!」

目を輝かせて力いっぱい話すと「うける」と、桜庭さんは楽しそうに肩を揺らした。笑い終えた桜庭さんは、流れるようなモーションで、親指と人差し指でハートを作ってみせた。

「こんな感じ?」

えっと、誰が苦手だって?
その不意打ち、はにかんだ笑顔、完璧ですよ?
もしくは生まれ持ったアイドルとしての素質ってやつですか?

「すっっっごくいいです!その調子でファンの子と、ハートを作りましょう!」

はい!と片手でハートマークの片割れを作ると、片手で壁を作られ、断固拒否されてしまうから「え、えぇ……?」と口を歪めて見上げると「嘘だよ」と桜庭さんはハートマークを完成させた。胸がいっぱいで、ときめきの過剰摂取で、心臓に悪い。

「溶けました。こすずはもう、駄目です」

「じゃあ二度としない」

「はい!生き返りました!」

「心鈴ちゃん限定にするなら、こんな感じかな」

桜庭さんは指ハートを胸の前で作ると「こ・す・ず」と紡いだ文字の数、鈴のように揺らした。

苦手で良いです。桜庭さんのファンサは危険です。

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